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「話はそれだけだから。もう会うこともないと思うけど、大学、頑張ってね。一緒に行くって約束破ってごめんね」
「謝るとこはそこじゃねぇだろ!」
こんな風に冷たい視線を向けられる日が来るなんて思ってもみなかった。いつだって拓也は優しく穏やかで、ケンカをしても怒鳴り声をあげたことなんて一度だってない。そんな彼が大好きだったし愛してもいた。
あなたの子だよ。浮気なんてうそだよ。
そう言えたらいいのに。覚悟を決めても、気持ちは揺らぐ。
拓也以外に抱かれるなんてあり得ない。
私の初めては全部拓也にあげたのだから。けれど、これで良かったのだ。真実は胸に秘めておけばいい。それが彼の幸せのためならば、裏切り者と誹られたって構わない。
私が妊娠を家族に打ち明けたとき、お父さんにもお母さんにも泣かれたし、怒られた。相手は誰だと詰め寄られたが拓也の名前は出さなかった。
お父さんが拓也の家に怒鳴り込みに行きそうな勢いだったし、拓也の家族に知られるのは怖いと思ったのだ。それに愚かにも、彼の将来を考えてしまった。
両親からは、堕ろした方がいいと言われた。私もそうするつもりだった。
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