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一通りの作業を終えた私たちは寝室をあとにして、ドアを閉める。
「さすがだな。慣れてる」
飲み物を用意すると言った彼を手伝うため、私もキッチンに立った。グラスに氷を入れて、ペットボトルのミネラルウォーターを注ぐ。
「仕事で遅くなることもあったから」
以前の職場では定時に帰ることを許されず、家に帰る時間が遅くなってしまっていたのだと告げると、拓也は眉を顰める。
「そのとき、寧子の力になりたかった」
「ワンダープレイに派遣されてからは、うそみたいに働きやすくなったの。嬉しかった。あなたの言葉」
──いや、早く帰ってやれ。三年生とはいえ、まだ子どもだ。君が遅くなったら心配するだろう?
子どもが可哀想だから帰ってやれ、と言われることはよくあったが、心配するから早く帰れと言われたのは初めてだった。
「だからあのとき、泣きそうになってたのか」
「もう、それは忘れて。でも、いい会社よね。あなたが社員を守ってくれるから、みんな頑張ろうって思えるんじゃない? 明るくて雰囲気がいいもの」
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