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「昔さ、お腹が大きくなった社員を見て、やっぱり寧子を思い出したんだ。歩くのも大変そうなのに忙しい時期だとなかなか帰れない。子どもがまだ小さいからって申し訳なさそうに帰っていく社員もいた。もしかしたら寧子も同じような苦労をしてるかもしれないって思ったんだ。それで使命感に駆られた。幸い、制度を変えられる立場にあったしな」
「そうだったの」
「あぁ、お前は俺より金持ちの男に嫁いで幸せになってるって認めたくなかったんだよな。幸せになっていてほしいのに、俺以外の男と幸せになるのは許せないなんて、ひどい男だろう?」
「私だって、同じ気持ちだった。あなたに幸せになってほしいってうそをついて逃げたのに、あなたがほかの誰かと幸せになる姿は見たくなかった。それに、もし本当のことを言ったら家族になれたかなって想像もしたし」
「想像してくれ、もっと。俺はもう、お前を離すつもりはないから」
背後から手を取られて、左手の薬指にダイアモンドのついた細いリングが嵌められる。
「もらってくれるか?」
「うん。私も……あなたがいない人生なんて、考えられない」
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