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ロビーに下りると、派遣会社のコーディネーターである岩波(いわなみ)さんがどこかぎこちない笑顔で頭を下げてきた。彼女の顔にぴんとくる。あまりいい話ではなさそうだ。
「契約の更新の件で伺いました」
「はい」
岩波さんは一呼吸置いて、申し訳なさそうに続けた。
「会社側は契約を更新しないそうです。契約社員としての雇用も勧めたのですが……いいお返事はいただけず……お力になれず、申し訳ありません」
「いえ、岩波さんのせいじゃないですから」
契約社員、正社員として人材を雇用するのを嫌う会社も多い。なにか問題があってもすぐに解雇とはいかないからだ。
よほど会社に重用されていればべつだろうが、高卒の私程度の人材など掃いて捨てるほどいるのだろう。
ここで働き始めたのは、二年ほど前からだ。暇なときは定時に帰れるものの、納期が差し迫った時期になると、深夜までの残業も珍しくない。
私の派遣の契約は残業三十時間以内の九時から十七時まで。月の残業時間は三十時間に満たないほどではあるのだが、終電で帰る日が一週間続くと、秀也と話す時間さえ取れなくなってしまうのだ。
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