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「母さんは俺たちの交際に反対してただろう? これ以上俺が母さんを憎まなくて済むように、家族の縁を切らせないように、寧子は自ら悪役になってくれたんだ。事実、俺はなにも知らずに寧子を憎み続けた……十年も。それを母さんのせいにするつもりはない。だけど、これ以上、俺の大切な人を悪く言わないでくれ」
「私は、あなたのために……」
「俺の幸せは寧子と秀也と一緒にいることだ。それに、俺はまだ新米の父親だけど、これだけは決めてる。子どもの進む道を応援こそすれ、邪魔はしない」
「邪魔をしたつもりなんてないわ」
「寧子が家に来たとき、嫌味ばかりでまともに挨拶すらしなかっただろう。ま、邪魔されればされるだけ盛りあがったけどな」
拓也は口元を緩めて私を見た。
犬飼さんははっと我に返ったように視線を動かした。初めて彼女の目に私が映る。自分の行動がただの憂さ晴らしでしかなかったことに気づき、恥じているようだ。
「そう、だったわね。ごめんなさい」
「しっかりしてくれよ。孫の面倒を見なきゃならないんだから」
私が別室で待っていた秀也を呼ぶと、お行儀良く犬飼さんの前にちょこんと座る。
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