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まだ闇が残る早朝、つい先程まで酒の匂いと喧騒を振り撒いていた街は春とはいえキンとした冷たい空気に包まれている。夜通しギラギラと街を照らす電飾と水しぶきを上げながら音を立てる大きな噴水。ふらふらと歩く人影がちらほら見えるものの夢から醒めたような寂しさが漂っている。
街の中心地を離れると、遠くではゴミを回収する車の音と車から伸びるアームがゴミ袋を掴んで放り込むドサドサという音、そしてカラスの鳴き声が聞こえるだけだ。
暗い路地を選びながら走る二人の男の姿があった。
後から走る一人はぜいぜいと荒い息を白く吐きながら、足をもつれさせるようにしてなんとか足を動かしている。
「浅見、大丈夫? かつごうか?」
黒髪の長身の男が振り向き、息を荒げている男に声をかけると、細身の男が眼鏡の奥からきっと睨んだ。
「や……やめてくれ、恥ずかしい!」
「じゃあ頑張って。明るくなる前にこの街を出るんだろ?」
二人は走り続け街を囲むフェンスにある一つの門の近くに辿り着いた。幹線道路につながる大きな門には常駐の警備員が立っているが、ここにはいない。その代わりに強固なセキュリティが施されている。
この街にはカジノや豪華な劇場に歓楽街など、人の欲望を刺激するものが集められている。多くの金が飛び交うこの街は入る人を選び、出ることも難しいのだ。
「解除できそう?」
「俺を誰だと思っているんだ。」
細身の男が手に持った小さな機械の、そのまた小さなキーボードでなにやらプログラムを打ち込んでコンパイル(※)し、二次元コードに変換して門の取っての部分にあるカメラにかざした。
あらかじめ作っておいたプログラムに鍵の型を追加したのだ。
かちゃりと音がして門が開く。
「すごい、さすが浅見!」
「おべんちゃらはいいから、行くぞ!」
「なんだかワクワクするね!」
「いいから、黙って走れ。カメラには映っているだろうから、すぐに追っ手が来るぞ。」
「はいはい。浅見こそ頑張って走ってね。」
楽しそうに笑顔で走る黒髪の男に、「浅見」と呼ばれた細身の男は呆れたような力が抜けたような視線を向けた。
***
※コンパイル
プログラミング言語で記述されたソフトウェアの設計図(ソースコード)を、コンピュータが実行可能な形式(オブジェクトコード)に変換する作業のこと。
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