彼は何者

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彼は何者

 いつものようにおぼっちゃまの部屋の掃除を終え、最後にほうきを手に持ってベランダに出た時、庭の奥の一本の大きな木の下の茂みに、誰かがうずくまっていました。  昼間ということで防犯システムは最低レベルに設定されており、警備用のアンドロイドがいるはずですが、防犯カメラの死角になってもいるようで誰も気づいていません。  なんとなく、本当になんとなくでした。普段の私なら、すぐに警備用アンドロイドに連絡をして掃除を続けるところですが、その時はそっとほうきを下に置き、階段を降りて庭に出ました。   「あなた、どうしました?」  うずくまっていた人が顔を上げました。  黒い艶やかな髪の毛、黒い瞳の人間(ヒューマン)の男性です。  服と肌は少し薄汚れています。   「君は……アンドロイド?」 「はい。メイドアンドロイドです。」  彼は戸惑っているようでした。アンドロイドを見るのは初めてでしょうか。この特区では珍しいことです。  というか、誰?   「君、話せるの?」 「はい。」 「そうなんだ……。あの、斎木教授は……いらっしゃいますか?」 「ご主人さまはソピアの中央センターにおいでです。本日は帰られない予定です。」 「そう……か。」  彼はわかりやすく項垂れました。 「あなたはご主人さまのお客さまですか?」  その割には薄汚れているけど。 「……。」 「では泥棒ですか?」 「違う。」 「では次回は身なりを整えて正面玄関からお越しください。今日は私が裏門までご案内します。そうすれば警備用アンドロイドも……。」  彼が驚いたような顔をして私を見ました。 「見逃してくれるの?」  私が首を傾げると彼は続けて言いました。 「アンドロイドが不審者を自分の判断で見逃すの?」 「見逃す……、そうですね。見逃すというよりはこの敷地内からの排除ですかね。あなたは害があるようではありませんし、後日きちんとアポイントメントを取っていただければ問題ありません。」 「僕が誰か、確認しないのか?」 「私の中には、このソピアの中の住民とアンドロイドすべての名前と顔が入っています。あなたはそこに含まれません。が、それを追求するのは私の仕事ではありません。ただのメイドですので。」    私が彼に立ち上がるように促すと、ゆっくりと立ち上がりました。ご主人さまよりも背が高く、その均整のとれた身体と顔の美しさは、どこか人間離れしています。神が作った黄金比を体現しています。  彼は私の目を見て、微笑みました。   「僕はタクト。君の名前を教えてもらってもいいかな。」 「リーアです。」 「ありがとう、リーア。」  彼はもう一度私の目を合わせてにっこりと微笑みました。そして裏門から出て姿を消しました。  もちろん、その後私はおぼっちゃまの部屋のバルコニーの掃除はちゃんと終えました。
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