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その後タクトを見ることはありませんでした。もしかすると研究室の方へアポイントを取って会いにいったのかもしれません。
*
「おぼっちゃま、朝です。起きてください」
いつものようにシャーッとカーテンを開けますが、本日は雨です。窓は開けません。
「本日の予定を申し上げます。この雨は七時十五分三十二秒に止み、天気は回復します。その後七時二十分に登校……。」
おぼっちゃまはゆるゆると着替えながら聞いていらっしゃいます。
「本日はおぼっちゃまの十三回目のお誕生日です。」
「わかってる! てかおぼっちゃまは今日限り止めろ。」
「ではそのようにおぼっちゃまからご主人さまに要請してください。今日のお誕生日会がぴったりかと。」
おぼっちゃまがむむぅっと不貞腐れてしまいました。絶賛思春期中で、おぼっちゃまとご主人さまはしばらく会話をしていないのです。
*
おぼっちゃまが登校した後、私はおぼっちゃまのプレゼントを受け取りに出かけました。雨上がりで視界がクリアになったような気がします。
普段、私が外に出ることはありませんが、おぼっちゃまに関する要件は私の仕事ですので、おぼっちゃま関連の買い物などは私の役目です。
碁盤の目に整備されたソピアの広い道路には路面電車が走り、居住区域と商業区域を繋げています。
商業区域では、区画ごとに八百屋や魚屋などの食料品のお店、雑貨屋や宝石屋などの嗜好品のお店が固まっていて、同じような白い壁に屋根がオレンジ色の瓦でできた建物が並んで建っています。
カフェの前にあるテーブルでは何人かのヒューマンが遅めの朝食を摂っています。
街路樹が並んだ広い歩道を歩き私が目指すのは時計屋さんです。おぼっちゃまは大人っぽいクロノグラフをご所望なのです。
時計屋さんのエントランスに入ると、ガラスの扉の横にあるカメラで私の瞳の中にある二次元コードを読み込ませます。これで入店可能です。ヒューマンは静脈を読ませます。
「いらっしゃいませ。」
中に入るとヒューマンの店員とアンドロイドの店員がいます。先ほどコードを読ませておいたので、注文してあった時計がすでに店の中央にある白いテーブルに置かれています。
「こちらでお間違えございませんか?」
「はい。」
「ではお包みしますのでお待ちください。」
ヒューマンの女性店員が腕時計の入った箱を持っていくと、アンドロイドの店員がテキパキと包み、綺麗に青いリボンを結んでくれています。
先ほどのコードの読み取りで支払いも完了しているので、あとはもう持ち帰るだけです。
さて、次はケーキです。二つ隣の区画なので歩いて行きます。
交差点ごとにシンボルツリーと花が植えられた公園があり、憩いの場となっています。
その公園の一つに見たことがある人物が立っていました。
「リーア。」
完璧な黄金比が笑顔で手を振っています。
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