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22
それから二週間とちょっと経ち、冬哉は無事に初仕事を終える。
「冬哉、お疲れ様。まるでベテランのような貫禄だったね」
「もー。リアン、冗談は止めてください。ついさっきだって、コンマスにちょっとは緊張しろって言われたんですから」
緊張してない訳ないじゃないですか、と口を尖らせると、リアンは声を上げて笑った。
今日はクリスマスコンサート。冬哉の初仕事で、団員最年少ともあり、団員たちは声を掛けて来てくれる。
幸いにも、冬哉はここでも沢山の事を学べそうで、学校にいる時よりも知的好奇心をそそられ、リハーサルの時からとても充実した日々を送っていた。
「ところで、冬哉はこの後予定は?」
リアンにそう聞かれ、冬哉は微笑む。察した彼はああ、と笑った。
「先約ありか。……まぁでも、私はきみを諦めるつもりはないけど」
「え?」
冬哉は思わず聞き返す。自分の勘が働かなかった事にも驚いたけれど、リアンの気持ちにも驚いた。単純に、フルートの腕を買われたと思っていたのだ。
冬哉は満面の笑みを浮かべる。
「それは難しいですね。何せ僕の彼氏はゴキブリみたいにしぶとくて、蟻みたいに僕のために働いてくれますから」
そんな彼に僕はぞっこんなんです、と言うと、妙な例えだね、とリアンはまた笑った。
帰り支度をし会場を出ると、会場そばの広場に冬哉の彼氏はいた。夕方からの公演だったため、外は所々で街頭が点いているだけで暗い。小走りで近付くといつものようにスマホをじっと見つめていて、こちらには気付いていないようだ。
「しゅーうくんっ」
彼の腰に抱きつくと、勢い余って彼はよろけた。それでも顔を見るなり頭を撫でてくれるので、嬉しかったらしい。冬哉は笑う。
「見に来てくれてありがとうねっ」
彼を見上げると冷たい風が通り過ぎた。寒くて彼の腕にしがみつくと、彼の手が冷えていることに気付く。
「寒かったね、ごめんね?」
そう言って手を繋ぐと、冬哉はコートのポケットの中に彼の手を導いた。秀はその様子をじっとみつめて、行こう、とゆっくり歩き出す。
「……秀くん、温かいもの食べたくない?」
寄り道しようよ、と言うと、彼はダメだ、と短く言った。
今日はクリスマス。冬哉の初仕事のお祝いにと、両親が自宅で秀と冬哉を待っているのだ。
「待たせちゃ悪いだろう」
「むー……。確かに紹介するって言ったけどさぁ……」
冬哉は口を尖らせる。先日、秀と自宅でまったりしていた時に、いつものように突然来た莉子は、すぐに二人が付き合い始めた事を言い当て驚かせた。前回秀に会った時に不思議そうにしていたのは、両想いなのに何で? と思っていたらしい。莉子の勘は冬哉より鋭かったようだ。
そしてそんな彼女に、紹介しろとしつこく迫られ……仕方なく冬哉が折れた感じだ。
「冬哉」
秀が突然立ち止まる。冬哉も止まって彼を見上げた。
街頭の明かりに照らされて、秀の前髪の奥の瞳が揺れる。綺麗だなと思って見ていると、それがそっと近付いた。
ちゅ、と唇を吸う音がする。温かくて柔らかいそれは直ぐに離れ、行こう、と秀は歩き出した。
「も、もう……秀くんいきなりすぎるよ……」
「……家に帰ってもできないから」
今のうち、と彼は甘い声で囁く。
ポケットの中の彼の手がじわりと温かくなった。冬哉も冷たい空気の中、顔が熱くなるのを自覚する。
「秀くん、好きだよ」
「うん」
落ち着いたその声が、ますます冬哉の心を弾ませる。
このままこの幸せな時間が続きますように。
ぎゅっと握られた手を、冬哉はそっと握り返した。
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