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 それから二週間とちょっと経ち、冬哉は無事に初仕事を終える。 「冬哉、お疲れ様。まるでベテランのような貫禄だったね」 「もー。リアン、冗談は止めてください。ついさっきだって、コンマスにちょっとは緊張しろって言われたんですから」  緊張してない訳ないじゃないですか、と口を尖らせると、リアンは声を上げて笑った。  今日はクリスマスコンサート。冬哉の初仕事で、団員最年少ともあり、団員たちは声を掛けて来てくれる。  幸いにも、冬哉はここでも沢山の事を学べそうで、学校にいる時よりも知的好奇心をそそられ、リハーサルの時からとても充実した日々を送っていた。 「ところで、冬哉はこの後予定は?」  リアンにそう聞かれ、冬哉は微笑む。察した彼はああ、と笑った。 「先約ありか。……まぁでも、私はきみを諦めるつもりはないけど」 「え?」  冬哉は思わず聞き返す。自分の勘が働かなかった事にも驚いたけれど、リアンの気持ちにも驚いた。単純に、フルートの腕を買われたと思っていたのだ。  冬哉は満面の笑みを浮かべる。 「それは難しいですね。何せ僕の彼氏はゴキブリみたいにしぶとくて、蟻みたいに僕のために働いてくれますから」  そんな彼に僕はぞっこんなんです、と言うと、妙な例えだね、とリアンはまた笑った。  帰り支度をし会場を出ると、会場そばの広場に冬哉の彼氏はいた。夕方からの公演だったため、外は所々で街頭が点いているだけで暗い。小走りで近付くといつものようにスマホをじっと見つめていて、こちらには気付いていないようだ。 「しゅーうくんっ」  彼の腰に抱きつくと、勢い余って彼はよろけた。それでも顔を見るなり頭を撫でてくれるので、嬉しかったらしい。冬哉は笑う。 「見に来てくれてありがとうねっ」  彼を見上げると冷たい風が通り過ぎた。寒くて彼の腕にしがみつくと、彼の手が冷えていることに気付く。 「寒かったね、ごめんね?」  そう言って手を繋ぐと、冬哉はコートのポケットの中に彼の手を導いた。秀はその様子をじっとみつめて、行こう、とゆっくり歩き出す。 「……秀くん、温かいもの食べたくない?」  寄り道しようよ、と言うと、彼はダメだ、と短く言った。  今日はクリスマス。冬哉の初仕事のお祝いにと、両親が自宅で秀と冬哉を待っているのだ。 「待たせちゃ悪いだろう」 「むー……。確かに紹介するって言ったけどさぁ……」  冬哉は口を尖らせる。先日、秀と自宅でまったりしていた時に、いつものように突然来た莉子は、すぐに二人が付き合い始めた事を言い当て驚かせた。前回秀に会った時に不思議そうにしていたのは、両想いなのに何で? と思っていたらしい。莉子の勘は冬哉より鋭かったようだ。  そしてそんな彼女に、紹介しろとしつこく迫られ……仕方なく冬哉が折れた感じだ。 「冬哉」  秀が突然立ち止まる。冬哉も止まって彼を見上げた。  街頭の明かりに照らされて、秀の前髪の奥の瞳が揺れる。綺麗だなと思って見ていると、それがそっと近付いた。  ちゅ、と唇を吸う音がする。温かくて柔らかいそれは直ぐに離れ、行こう、と秀は歩き出した。 「も、もう……秀くんいきなりすぎるよ……」 「……家に帰ってもできないから」  今のうち、と彼は甘い声で囁く。  ポケットの中の彼の手がじわりと温かくなった。冬哉も冷たい空気の中、顔が熱くなるのを自覚する。 「秀くん、好きだよ」 「うん」  落ち着いたその声が、ますます冬哉の心を弾ませる。  このままこの幸せな時間が続きますように。  ぎゅっと握られた手を、冬哉はそっと握り返した。
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