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第1話
とら猫のトラは、この町で自由に生きる猫である。
長い夏が終わって、やっと秋になった。トンボが空を飛んでいる。
トラはそのトンボ達を、地面の上から眺めていた。
あるトンボを探しているのだ。もう三日になるだろうか。
「いた!」
一匹のトンボの頭がきらりと光ったのを見て、トラはニャンと鳴いた。
「今年も見つけた!頭に皿のあるトンボ!」
仲間を見つけたと、喜んでいるのだ。
頭に皿のあるトンボは、千匹に一匹とも、一千万匹に一匹とも言われている。
猫も同じだ。千匹に一匹か、一千万匹に一匹かの割合で、頭に皿のある猫が生れてくる。
猫とトンボだけではない。その他の動物と昆虫にも、同じくらいの割合で、頭のてっぺんに皿が付いた個体が出現する。
トラは、トンボが飛んでいったほうの空をしばらく眺めていた。
自分と同じそういう生き物に、トラはなんとなく親近感を持っている。
ほんの少し珍しいだけで、特別でも何でもないものなのだが。
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