愛すべき我が子へ

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「──はっ??」  美里は何を言っているんだ?冗談だろ──。  今やすっからかんになった部屋の中で一人、夢中で中身を読み進める。  そこには……自分の免許証は偽物で、僕とも里恵とも血が繋がっていないただの苦学生だったこと。逆に里恵が四年前に亡くなったことは本当で、知人レベルではあるが里恵の子供と知り合いだったが為に、僕の存在を知ったこと。  そして、お金目的で大学卒業まで僕に近付いたこと。予想外で奇想天外な事実が、長々と記されていた。  美里は……今やそれが本当の名前かも怪しいが、僕を完璧に(だま)した若き詐欺師だった。最初に家に招き入れた時の違和感が(よみがえ)る。  これで僕らは……完全に赤の他人になってしまった。いや、最初から他人だった。  二年前に逆戻り。僕はまた、生きる希望を失ってしまった。  そんな絶望に打ちひしがれていると──手紙の最後の一文が目に入り、さらに驚愕(きょうがく)の事実を知る。 『ちなみに里恵さんは亡くなる数年前に結婚していて、晩年は"早見"という苗字ではありませんでした。息子さんはまだこの街に住んでいるはずですが、今の苗字は"夏川"です。』 「──夏川??」  聞き馴染みのある響き。  すぐに思い浮かんだのは──気の知れた優しい笑顔と共に、コーヒーを淹れる喫茶店での姿だった。  手紙を放り投げ、全速力で家を飛び出す。警察に連絡するのは、もう少しだけ後になりそうだ。
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