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結婚どころか、見合いですら現実味のまったくなかった杏璃だったが、リアルな見合い現場を目の当たりにしてしまった途端に緊張感に襲われてしまっていた。
それもこれも、せっかくのお見合いなんだから、と言って伯母に問答無用で着付けられてしまった振袖のせいだ。
やけに張り切っていたためか、親の敵かと邪推してしまうほどきつく締め上げられてしまった帯のせいで、さっきから窮屈で仕方ない。
成人式で一度だけ袖を通して以来タンスの肥やし化していたものだから、着慣れないのは当然だ。
今の季節にピッタリな、桜の花が咲き乱れる薄桃色の振袖を見下ろしながら、緊張を誤魔化すために、ロイヤルミルクティーが注がれているカップに手を伸ばしかけたところで、すぐ隣で控えていた伯母のスマートフォンがブルブルと震えだした。
「あら、お着きになったのかしら。はい。高邑杏璃の伯母・晴子でございます」
伯母の口振りから、どうやら見合い相手の付添人からの着信のようだ。
おそらく相手が到着したという報せなのだろう。そう察した杏璃の緊張感は最高潮に達しつつあった。
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