降って湧いた縁談話

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 世間の女性からイケメン狂言師だと言って黄色い声で騒がれている二人の兄が自分のために、稽古場から飛び出して早々師匠である父に異議を申し立てている。……という、親子とは言え師匠の言葉に楯突くなど言語道断の世界では、まず目にしないであろう珍しい光景だ。  あくまでも家を一歩出た外での場合だが、家の中でもこんなことは初めてなので珍しいことには変わりない。  兄二人にとっては、それほどに一大事なのである。  それもそのはず、兄たちと血こそ繋がってはいるが、杏璃にとって二人は兄ではなく従兄になるからだ。  杏璃の母親は、いわゆる未婚の母で売れっ子のファッションデザイナーとして世界を駆け回っている。  会えるのは年に一、二度。多忙な母の代わりに伯父夫婦が杏璃の親代わりをしてくれている、というわけである。  少々特殊な家庭環境ではあるが、二人の従兄とは兄妹のように育ってきたし、兄として慕ってもいる。  それがまさか、従兄たちが肉親以上の感情を抱いているなどとは、露ほども思ってはいない。
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