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しかも縁談の相手というのが、従兄たちにとって同じ流派の狂言師でありながら、近頃映画やドラマに引っ張りだこの若手俳優で、女性との噂が絶えないいけ好かない相手だから尚更だ。
そんな相手に、可愛くてどうしようもない杏璃を嫁にやるなんて、冗談じゃない! 嫁になんか行かずに、ずっと家にいればいいんだ。杏璃一人ぐらい養っていけるーー。
従兄たちの気持ちなど露も知らずに、下座で他人事のように涼やかな表情で無感動に眺めている杏璃には、関心はもちろん、危機感もまったくなかった。
ーーお見合いなんて、相手のことを気に入らなかったら断ればいいだけの話でしょ。どうせ相手も、昔からの付き合いで仕方なくお見合いさせられるだけだろうし。だったら、そんなに心配しなくても、相手が断ってくれるに違いない。海兄も空兄もそんなに目くじら立てなくてもいいのに……。お祖父ちゃんに叱られても知らないよ。
従兄たちに比べ平凡な自分のことなど相手が気に入るわけがない。そう信じて疑わない、なんとも呑気な杏璃である。
杏璃の予想が的中し、騒ぎを聞きつけた祖父・泰臣が姿を現した。
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