初夜って、あの、初夜のことですよね?

2/6
1001人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「ああ。それ以外に他に何があると言うんだ?」 「いえ、その、それ以外にないんですけど……!」 「なら、夫婦なんだし、問題ないんじゃないか」  ――いやいやいや、大ありです! だって、私たちは本物の夫婦じゃなくて、利害一致の〝ソロ活婚〟をしただけなんだから、初夜なんて必要ないと思うんですけど。  杏璃が心中で盛大なツッコミを繰り広げているというのに。戸籍上では夫となったこの男は、匂い立つほどの大人の色香を振り撒きつつ、おろおろしどうしの杏璃をやけに熱っぽい眼差しで見下ろしてくる。  ――な、何だろう? この、狙った獲物を仕留めようとしているハンターのような目つきは……。女には興味が湧かないんじゃなかったの? も、もしかして、私、このまま食べられちゃうの?  そんなおバカな思考を巡らせている隙に、整いすぎているせいで一見冷酷にも見える、冴え冴えとした切れ長の双眸が甘く眇められ、ゆっくりじりじりと距離を詰めてくる。  あまりに現実とかけ離れているせいか、その様をぼんやりと見つめることしかできない。  無理もない。  これまでの人生において、といってもたかだか二十三年と三ヶ月程度なのだが、セックスどころかキスの経験さえもないのだから。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!