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杏璃は狼狽えるあまり、央輔の身体を突き飛ばす勢いで押しやりつつ高い声を放っていた。
そんな杏璃に対して、央輔は溜息交じりにぶつくさと呟いた後で、医者らしい台詞を口にする。
「自分から抱きついてきといて悲鳴はないと思うが……。そんなこと病人相手に言っても仕方ないか。具合はどうだ? どこか痛んだりしないのか? 例えば頭とか、どうだ?」
その声に意識と視線とを向けると同時、央輔はこちらに身を乗り出し、えらく真剣な熱い眼差しで見つめながらゆっくりと迫ってくる。
氷のプリンスに激似の央輔を前に、見蕩れてしまった杏璃はぽーっとしてしまう。
――何だかお医者様みたい。あっ、そういえば美容外科医って言ってたんだっけ……。それにしても、よく似てる。
だが央輔との距離が縮むにつれ、忘れかけていた緊張感が舞い戻ってくる。
――ど、どうしよう? またドキドキしてきちゃった。
再び意識し始めてしまった杏璃がどんどん高鳴っていく胸を押さえながら、一人焦っていると、眼前に央輔がずいと一気に距離を詰めてきた。
――もうダメ。心臓が飛び出ちゃう。
ぎゅっと瞼を閉ざした杏璃が生命の危機を感じている隙に、央輔に手首を恭しく持ち上げられてしまう。
――ま、まさか、手の甲にキス⁉
心拍数がズキューンと跳ね上がった次の瞬間、央輔の落ち着き払った低い声音が耳に届いた。
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