降って湧いた縁談話

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降って湧いた縁談話

 季節は三月の中旬。  寒さも緩み過ごしやすい陽気になってきて、厳しい冬の季節を耐え抜いた桜の蕾が綻び始めた今日この頃。  今日も朝から、各局の情報番組のリポーターが競い合うように開花予報に明け暮れている。それを横目で見ていた杏璃は、風情もへったくれもない呟きを胸の内で零していた。  ――桜は確かに綺麗だと思う。けど、そこまで騒ぐようなものかな。  美しい花を愛でて楽しむより、一人でのんびり大好きな推しを眺めているほうがよっぽど有意義に思えてならない。  見頃を迎えた桜の花同様に、女性としても今が一番輝かしい時期であるはずなのに、推し以外の異性にまるで興味を示せないでいた。  少々残念な杏璃ではあるが、特殊な事情を除けば、ごくごく普通の幸せな家庭で、ごくごく普通に愛情を注がれて育ってきた。見た目もごくごく普通のどこにでもいる平凡な容姿をしている。  そう思っているのは杏璃だけ。  確かに、一五六センチという小柄な部類ではあるが、それなりにバランスのとれたスタイルをしている。
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