降って湧いた縁談話

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 そういう狭い世界で育った杏璃にとっての日常は、刺激もなく、ひどく退屈に思えてならなかった。  ゆえに、昔から好きだった恋愛小説やコミックスに登場するような素敵なヒーローがいつか現れて、退屈な日常から救い出してくれるに違いないーーひっそりとそんな願望を胸に秘めていたのを誰も知らない。  杏璃の願望も虚しく、過保護な兄のおかげで、兄以外の異性とお近づきになる機会どころか恋愛経験すらなかった。  このままでは、伯母同様、短大卒業に伴い花嫁修業をさせられて、そのままお見合い結婚させられてしまうだろう。  それならせめて、一度くらい兄たちの目の届かない外の世界に出よう、と周囲を説得し就職して社会に出てみたものの一向にそんな気配はなく、待っていたのは推しとの出会いだった。  それからはもう推し一筋。  もうすぐ二十三になろうかというのに、高邑杏璃には、未だ浮いた話の一つもなかった。  そんな杏璃は、子どもが好きだという理由で短大時代に取得した資格を活かして保育士として働いている。  休日になれば、近頃流行のお一人様時間を満喫するソロ活と称して、推し活に勤しむ日々を送っていた。
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