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姫君のトラブル
その事件から、数日後の事。
「これから、空港に直行しますが、時間ギリギリなので、近道をします」
そう言って、
近藤は、倉庫の立ち並ぶ道路を車で走らせていた。
倉庫のむこうは大きな川になっていて、地元の人間なのか、竿とバケツを持った釣り人の姿が見える。
「いいな、日本に帰れるなんて、俺も刺身が恋しいよ」
助手席の久遠が、ふてくされぎみに言うと、
近藤は少し笑って
「どこでも、日本食レストランはあるでしょう」
久遠は首を横に振った。
「まぁね、でも、やっぱり日本がいいのさ」
「あなただって、これからエミリアとバカンスでしょう。
私は日本に帰っても、道場で稽古ですから。
昇段試験の近い弟子を、何人か抱えていますのでね」
久遠はくくっと笑って
「師範先生も大変だな。道場経営ってもうかるのかな?」
近藤は苦笑するように、ため息をついて
「儲かっていれば、私はここにはいませんよ。
うちは宗家といっても、しがない田舎の小さなものですからね。
私で15代目ですが、古いだけで・・
もう少し経営感覚のいい先祖がいれば、違ったのでしょうけど。
強さと経営は、別物ですから」
「でも、近藤が跡継ぎ、決定なんだろう?
外国に支部でも作れば?
俺も応援するからさ?」
近藤は口を歪めて、苦笑いを浮かべた。
「そこまで、大きくはできませんよ。知名度も低いし」
車が赤信号で止まった。
「あれ、ちょっと車・・その先で止めて」
何か見つけたのか、久遠が助手席から窓を開けて、身を乗り出した。
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