同僚が家にやってきて頸動脈になにか当たってます

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同僚が家にやってきて頸動脈になにか当たってます

 玄関扉のブザーが鳴り響いた気がして、傷心のぼくはベッドから起き上がった。  気分はさいあくだった。  アーサーくんに途中まで送ってもらって別れて、泣きながらアパートまで帰ってきた。熱いシャワーを浴びて、寝室を真っ暗にしてマクラにつっぷしてた。 「どうしよう……サブスク…退会しようかな……。25日までなら来月の引き落とし間に合うし……」  手にした魔工具のスマフォに目を落とす。  画面には「ララバイ☆サブスクアルファ~魔防法の前にお試しアルファの恋人(仮)~」が艶やかな文字でチカチカと輝いている。  落ちつくんだ、ニア。  サブスクアルファなんて、いつか終わりがくる。今日がちょうどそのときかもしれない。    でも、正直なところショックと悲しみが拭いきれない。  アーサーくんとしゃぶしゃぶにいったけど、リルくんと会ってしまってから味なんてほとんど覚えていなかった。  リルくんは同僚といっていたけど、声をかけてきたお相手はものすごい美女でエルフだった。  エルフは繊細でうつくしく、花のような妖精にちかい。たっぷりの野菜を食べていたにちがいない。  ばっちりのフルメイクに、彼女はキャットスーツなんて着たら似合いそうなほどセクシーで、すごく華があった。  しかもあれは絶対にデートで、プライベートの顔だ。リルくんは彼女に呼ばれると、ぼくからすぐに身体を離していってしまった。 「……そういえば次は外で食事したいなって話してたしな。デートプランのお誘いだったのかな。でも話したいことがあるっていいかけたような。もしかして、この店をやめることなのかな……」  サブスクと名はつくが、いわば風俗(ビジネス)。  ぼくは客でしかなく、彼にはちゃんとしたプライベートがある。  もしかしたら妹さんが退院したし、店をやめて彼女と結婚なんてことも十分にありえる。  いままでイチャイチャキャッキャウフフしていたけど、楽しかったのはぼくだけかもしれない。  ウォーエン。そう呼ばれたとき、初めてぼくは彼の名前を知って、彼についてほとんど知らないことに気づいた。知っていることは好きな食べものと、好きな映画と、好きな対位くらいだ。 「いさぎよく、ぼくから身を引いたほうが彼のためだよね……」  強火ファンである自覚はある。いつまでもサブスクで彼を呼び出したら迷惑千万だ。  退会画面のボタンを押そうとと思ったとき、トントンと申し訳ない程度のノック聞こえた。こんな夜中にだれだろう。  玄関のブザーがまた鳴った。どうやら気のせいではないらしい。  ベッドから降りて、ぼくは玄関にむかう。一枚の扉を隔てて相手がいるのがわかって、細く玄関扉をひらく。 「ニーア! よかった! 家にいた!」 「レイン!?」  そこにはレインがいた。  格好はあのときと同じ派手な花模様のシャツのままだ。両手にぱんぱんに膨らんだ袋を手にして、ぼくの顔を見てほっとしている。 「えっ……。もしかして泣いてたの?」 「そうじゃないです。ちょっといろいろあったんです」 「話なら聞くよ〜! じゃあお邪魔しまーす☆」 「あ、ちょっ……、レイン…まって……」  袋をむりやり手渡され、レインは我が物顔で家に入っていく。袋のなかをみると大量の酒がぎっしりとあって、センチメンタルな気分がふっとびそうになった。  いそいでリビングについていくと、レインはソファにふんぞり返って座っている。  ぼくはテーブルに袋を置いて、とりあえずキッチンにいってグラスと水のボトルを用意する。 「ニア〜、おしぼりもほしい〜!」 「ええと、わかりました……。すぐにもってきます」  レインはかなり飲んでいたらしく、呂律があやしい。 「ふ〜! さっそくまた一杯飲もうかな。ニアもなにか飲む?」  テーブルにもどると、レインが缶を取りだしてプルタブを空けて軽快な音がひびいた。  飲む気力もなかったけど、ぼくも袋からお酒をだして並べる。ワインにウォッカ、ウィスキー、ジントニックもある。どれもアルコール度数が高いものばかりで、缶だけじゃ飽き足らず瓶もあった。 「どうしたんですか。……突然こんなにお酒をたくさん買ってきて……。すごいたくさんあるじゃないですか。ぼくの家にくるなんて初めてだし…」 「近くによったからニアと飲みたいな~って思ってさ。あ、お金は気にしないで。いままで仕事押しつけちゃってたおわびとお礼。だーってさ、ニアばっかりずるいんだもん。モテ運気アップっていうの? 今日会っていたのってアーサーくんでしょ? ぼくさ、彼にもプッシュしたのに全然ダメなんだもん。だから近況報告も聞きたくてニアの家によったんだ〜」 「そんな、ただ食事しただけですよ。それに家にくるなら連絡してくれればよかったのに……」 「ごめーん。しようと思ったんだけど、すっかり忘れちゃった☆」   「そ、そうなんですか……」  どうしたんだろう。いっていることが支離滅裂で、いつものレインとちがう。  ええと、しかもここで飲み会がはじまるのか。アポなしの同僚の訪問に驚きつつも、レインのむかいに座って水をグラスに注いでみる。  とりあえず、スマフォをテーブルに置いて、ぼくらは乾杯した。
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