永遠の契約です

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永遠の契約です

「レイン……、きみって……」  ぼくの言葉に、ぐっと鋭利な刃物が首に刺さる。鋭い痛みとともに、たらりと首筋から血が流れ落ちたのがわかった。 「ニーア、いまさらだよ~。ボクがいやいや風俗店なんてところに浮足立って巡回にいってたと思った? なーにがサブスクアルファだよ。宰相直轄重大犯罪局のシークレットエージェント、ウォーエンじゃないか。まさかきみがニアにぞっこんになるなんてね~。きみたちふたりとも運命の番いみたいにハマっちゃったのが唯一の誤算だったよ。ニアなんてつまんないやつ、すぐに次にチェンジされて、ボクの息がかかったボーイにシャブ漬けにされると思ったのになあ。渾身のミスだね」  ナイフをつかむ手に力が加わっていくのがわかる。さらに痛みが増し、息苦しさに顔が熱くなってきた。 「テチチ。その人をすぐに放せッ……!」  リルくんの手に拳銃があり、ぼくにまっすぐとむけられている。 「……テチチってソフィアの元締めの……。うっ……」 「そうだよ。ボクがテチチ。あのオークが捕まってから急いで主犯を仕立てなきゃいけなくて大変だったんだよ~。なんせ彼、鍵番だったからね。だからアジトをニアの隣にして正解だったね。ニアの寝室の壁にはソフィアの粉末をたっくさん埋め込んでおいたし、リビングにはヤケ酒のように薬が混入された酒瓶が転がっているでしょ。あとはサブスクアルファにガチ恋しちゃって実らなかった恋の鬱憤を解消していたっていう遺書を添えたらぜーんぶ解決なのになぁ。状況証拠バッチリなのにざんねん」 「ど、どどどど」  どうしてそんなことをするんだろう。が、首を絞められていえない。  しかも恐怖で身体が強張って、全身の震えが止まらない。レインは満面の笑みをむけて、さらに言葉を継いだ。 「どうして? そんなの簡単じゃん。嫉妬。嫉妬だよ。それだけしかないじゃん」 「え……。そんな。どうしてレインが、ぼくにしっとするの……。わ、わからないよ……」  レインはチワワのキュルキュル系美人。  まばゆいほどの美人で、むさくるしい刑事部屋に花が咲いたように明るくて整った容姿でセイレーンとのハーフで……。  モテモテで、嫉妬なんてするわけがないのに……。 「はあああ? いつもぼうっとして、妄想ばっかして頭が腐っちゃったの? ぼくね、きみみたいなオメガだーいきらいなんだ。ニアってさ、ふだん黙々と仕事してインテリ美人ぶってるけどさ。筋肉もついているし、上司受けよくてもぱっとみふつうのベータじゃん。なんでも卒なく仕事をこなして、それでいてオメガらしい努力もしないでそれとなくアルファを惹きつけてるでしょ。巡回のとき、みーんなニアの連絡先訊いてくるんだもん。もうそばにいてイライラするんだよね。まあ合コンまでは生かしてあげよっかなと思ったけど、あのアーサーくん取られちゃってからちゃんと潰しちゃおって思ったの☆」  むちゃくちゃな言い分だ。真面目に仕事していたし、ぼくのことを訊いてくるアルファがいるなんていま始めて知った。  そしてそれをかわいく囁かれても全然うれしくない。 「レイン、他人に嫉妬をむけてもなんにもならならないです……。それにこんなことしても…すぐに自首したほうがいい……いたッ…」  刃先が食い込んで、ぽたぽたと血が床に垂れ落ちた。リルくんの顔がわずかに歪むのが見える。 「いまさらどの口がいうの? これからきみがここで亡くなって、すべての罪を償うってシナリオなんだよ?」 「そんな……ぼくはなにも……」 「ニアさん…ッ…」  なんだか視界もぼんやりし始めてきた。じわじわと視線がぼやけてきて、ぼくはこのまま死ぬんだと思った。リルくん。死に際にきみに会えた。  走馬灯のように瞼にいままでのことがよみがえる。恋人みたいだった。触れるような軽いキス。キャッキャウフフもした。蜂蜜とクリームローション責めも堪能した。リルくんの逸物もお風呂で触れた。  あとはあの重量級雄棒で……ぺちぺち……ほんばん……。  スッ……——。  ぼくは瞼が落ちて、ストンと直下していく気がした。とうとう天国に昇天したのかと思った。  そのときだった。すぐに銃声が三発とどろき、そのあとドサッと大きな音がした。目を開けると、そこにはちいさな手と足がある。チンチラの手だ。  それにどれもこれも大きく巨大化して見える。 「……ッ……」  喘ぎ声じゃない。レインのうめき声だった。  どうやら肩と腿、腕に魔弾が命中したようだ。目の前にいたリルくんが脚をひらりとまわして、レインの手からナイフを蹴ってとばす。  同時に勢いよくドアが蹴飛ばされて、次々と人が押しよせるように入ってくる。  なかにはあのエルフの美女もいて黒いスーツに身をつつんではいってきた。  人だかりをよけて、リルくんがぼくをポケットに入れて玄関からでて、だれもいないところに連れていってくれた。 「……あ、あの」  リルくんの右手には44口径のマグナム魔弾銃があった。  どうやらぼくが獣化した隙を狙って、リルくんがレインを倒してくれたらしい。  ありがとうと感謝の意を伝えなければならないのに、獣化してしゃべれない。 「ニアさん……!」  手のひらの上にのせられ、グーグー鳴くぼくを持ち上げて、リルの整った顔が近くにせまった。  ショロロロ……。  ぼくはなさけないことに、リルくんの手のひらでチビってしまった。 「ニアさん、飲まされたソフィアのアレルギー反応で獣化したんです。無事でよかった。ああっいけない。おもらししちゃいましたね。でもチンチラ姿もいとおしいです」  とにかく、こわかった。殺されそうだった。獣化してなかったら死んでた。  ぶるぶる漏らしながら震えていると、リルくんがこまったような笑みをみせた。 「とにかく、傷の手当てをしましょう。説明はあとにしましょう」  頭にキスされて、ぼくはただただ固まっていた。
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