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法事の席に現れた洋太は、しっかりと法衣と袈裟を着て見た目はしおらしく、敬虔な若い僧侶に見えた。 作法通りに席に着き、姉が準備してくれた法具を鳴らして、意外にも凛とよく通る声でお経をあげる。
禁欲的な黒の法衣に身を包み、容貌さわやかな青年僧の張りのあるいい声に、うっとり聞き惚れている女性の参列者も何人かいた。廊下では風呂敷を片付けながら弟の読経の声を聞いていた姉が
(あっ。今お経のページ飛ばしたな……あのバカ……)
と、片手で目を覆っている。とはいえ表面的には騒ぎもなく、粛々と儀式が進行して行った。
法事の後、ようやく務めを終えて帰ろうと席を立った洋太は、檀家のお年寄り達に囲まれてしまった。
「まあー! 洋ちゃん、先代のお祖父様が亡くなった後、しばらく見なかったと思ったら、こんなに立派になって……」
「まだまだオムツしてる赤ちゃんだと思ってたのにねえー」
「でも、お経は途中で少し飛ばしてたわね、うふふ」
ハッ? として真っ青になった洋太が体を二つ折りにして頭を下げ、声を震わせつつ謝罪した。
「す、すいません……‼ 大事なお式なのに、気づかなくて……!」
老婦人達はそろって明るく笑うと、洋太の腕だの背中だのをぺたぺたと親し気に叩いた。完全に、近くに住んでいる親戚の孫か曾孫などを見る目線である。
「気にすることないわよー! あんたはまだ住職見習いだし。言わなきゃ若い者にはわかんないから」
「そうそう。小っちゃい頃からバカ正直な子だね、ほんとに」
「覚えてるかい? あんた、うちのじいさんがまだ生きてた時に、ハゲ頭のことで――」
とか何とか、逆に励まされてしまった。そのまま思い出話に花が咲きそうな流れに、戸口から睨んでいる姉の視線に気づいた洋太が、申し訳なさそうに再び頭を下げて周囲に挨拶する。
「……ああ、そうだわ。大事なこと言っとかなきゃ。早くあんたもお嫁さんもらって、今まで苦労してきたお母さんを安心させてあげなさい!」
「お寺のためにも、それが一番よ。早く次の跡取りの孫の顔をね……」
急に洋太は顔を赤くして、今までになく焦った様子でしどろもどろに場を切り抜けようとした。
「い、いやあ、オレ……いえ私は、まだそういうのは早いかなって……そのう、修行の身ですから……!」
しまいに老婦人達から見合いの話を複数持ち掛けられそうになり、あわてて意味不明な言い訳をしつつ退出する洋太。その後、そつのない笑顔でお車代を受け取った姉が丁重な挨拶をして帰って行った。
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