第一章

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 体を拭って着替え、脱いだものを入れた洗濯機を回しながら、ワンルームの床に敷いた生成り色のラグマットの上の、輸入家具チェーンのセールで買った黒いテーブルを挟んで二人が座っている。  部屋のインテリアは洋太の趣味で、高級ではないがベッドを含めモノトーンを基調とした品のいい家具でシンプルにまとめられていた。ブルーのカーテンがほどよいアクセントになっている。  テーブルの上には、さっき洋太がコンビニで買ってきた自分用の梅しそおろし蕎麦と緑茶、順平には激盛りカツカレーと黒ウーロン茶。冷凍庫には風呂の後で食べる用のアイスも二人分入っている。  洋太が割り箸を持って溜息をつきながらぼやいた。 「……本当は先にシャワー浴びたかったんだけど。帰って来るなり誰かさんのせいで取っ組み合って疲れたし。午前中からバイトでそのまま法事にも行ってきたから、もーお腹ぺこぺこだよ……って、早っや!」  斜め前に座る順平は、洋太が蓋を開けた頃にはとっくに食べ終わっていた。 「さすが自衛隊員……食べるの速すぎだろ。味とかわかってんの?」 「大体食えれば何でもいい」 「あ、そう……選ぶ甲斐ないやつだなー」 「でも、こうしてお前と食うのが一番うまい。多分、砂を食っててもそう感じると思う」  真顔でそんなことを言われ、気恥ずかしさに思わず目をそらす洋太。照れ隠しに下を向いて蕎麦をちゅるちゅるとすすりながら (こいつって、たまにこういう恥ずかしくなるようなこと平気で言ってくる……意外と天然なのかな?) 「そういや、今回の演習? けっこう長かったね。配信で自衛隊の特集やってるの見て、こういうところに順平も参加してんのかなーって思ってた。訓練超大変そうだったから、オレには無理だなって……」  ふと気配を感じて顔を上げると、いつのまにか息が掛かるほど近くまでにじり寄って来ていた順平と、正面から目が合う。  そのままゆっくりと順平が唇を寄せてきて――。 (あっ、これまた押し倒されるな……)  と思ったので、先回りして順平の口を手のひらでパッと押さえる洋太。 「ストップ! まだダメだよ、今度こそ食い終わってシャワー浴びてからって!」 「……だったら早くしろ」 「っていうか! お前さっき一発出したじゃん?! もうそんなに溜まってんの?!」 「当たり前だ、あんなのじゃ全然足りねえよ……」  早くも再び熱っぽい視線をがっちり固定されて、下腹部にさっきの半端な刺激がよみがえってしまった洋太は、なぜか自分のほうがドギマギしながら赤くなって立ち上がった。  わずかに蕎麦を残して食べ終わった容器をシンクに置きながら、ぶつぶつと苦情をこぼす洋太。 「もーメシ食った後くらいゆっくり休ませろよ……オレ今から風呂入ってくるけど、来たら怒るぞ」 「……わかったよ。ちゃんと待ってる」  じりじりする”待て”の後でせっかく遊べると思ったのに、またおあずけをくらった大型のシェパード犬みたいに気の毒なほどテンション下がっている順平が、ちょっと面白いと思う洋太だった。
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