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今年の中秋の名月も、満月で本当に良かった。
僕は沁沁そう思った。
縁側の傍らには、手作りの月見団子とすすきが飾られている。こんなことにも妥協しないまどかの性格だ。
「悠ちゃん、こんな旧い家に来てくれてありがとうね。父さんもいなくなったのに……。ここを売りに出して、ふたりで賃貸マンションでも良かったのよ」
このタイミングでそんな話をするのか。
お月見の夜には似合わないだろうに。
まどかが何を考えているのか、表情からはよくわからない。
「俺がこの家に棲みたかったんだって何度も言ったよな?」
「そうだっけ?」
まどかは少し困った顔をしているようだ。
「そんなことより、せっかく今日は満月が綺麗なんだから、月見しよう。もっとこっちに来いよ」
僕はまどかをそっと引き寄せる。
「待って。お団子食べたい」
「あ、それは……」
僕がまどかを遮るも、手は団子に伸びる。
「えっ?!」
遅かった。
まどかは団子を掴むことはできなかった。
「どう…し…て……」
まどかの手は団子を突き抜け、更には段々と薄くなってゆく。
「わたし……死んでる…のね」
相変わらず、表情まではわからないけれど、僕のために笑おうとしているのは感じた。
「大丈夫。また会えるんだから」
次に会えるのは7年後だ。
「うん、愛してるね、悠ちゃん……」
「ああ、俺もだよ」
僕の言葉が届いたかわからないまま、まどかは完全に消えた。
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