第1章 恵美子

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二人の前に ワンボックスが止まり  中から大柄な男が降りて来て 立ちはだかった  晴夫は一瞬身構え 逃げ腰に成ってしまう 晴夫より一回り大きな体格 厳つい顔と鋭い眼光に  敵わないと白旗を上げていた 身長は190センチは有るだろうか  分厚い胸板と太い腕が 獣の様に晴夫に迫って来た 「谷口さんですか?」  顔に似合わない 優しい声で男は言うと 車の後ろを開け 2人の荷物を積み込み始めた 「バスは夕方しか、動かないから、誠に言われてお迎えに」 バス停に座って居る 男性に声を掛け  「 幸田様ですか? 」 男性が頷き 荷物を積み込むと  男性は 最後尾の席に座り 黙って 外を見つめていた 「ああ、誠は宿のオーナーで 私の幼馴染なんですよ」 走行中も 直樹は 温泉の由来や シェフの健太の話をして 「 健太は 東京のホテルに居たんですが 人間関係に嫌気がさして 」 「 今は 旅館の料理を 引き受けていますが 旨いですよ 」 「 楽しみにしてください お風呂と料理しかありませんからね 」 笑って車を走らせ 街道から脇道に車を入れ  10分程で着きましたと 言うと 車を止め  荷物を降ろして 晴夫が受け取り 恵美子が持とうとした 荷物を取り上げ 旅館の中へ入って行く  晴夫夫妻も 後を付き 入口を入ると 細面の男性が いらっしゃいませと 晴夫を受付に案内して 宿帳の記帳を求め 晴夫は記入しながら  「 今夜は?・・・ 」 小さく訊ねた 誠を見ると 誠が頷いて 「 ご主人こちらにも ご記入を 」 誠が耳元で  「 お食事が終りましたら あそこに見える  囲炉裏に 奥様と 来ていただけますか 」 「 他の、お客様も お見えに成ると思いますので 」 「 私が 3年物と一升瓶を 持ってきたら始めます 」 「 後は 私共が 上手くお誘いしますので  ご希望通りに 行くと思います 」 「 有難う御座います 」 誠は恵美子に聞こえる様に 挨拶をして 「 今日は? 」  晴夫が 取ってつけた様に誠に聞いた 「 はい おかげさまで 満室です 」 にこやかな顔で 誠が返し 「 どうぞ お部屋へご案内 致します 」 「 拓哉 案内して 」 誠に声を掛けられて 拓哉が傍へ寄って来て 恵美子の荷物を抱え拓哉の先導で 部屋に入った 12畳の部屋に4畳の板の間 向こうに 露天風呂が見え  目の前の 濃い緑の山並みが迫っていた 「 こちらの 露天は何時でも 入れます 」 「 入口の 脇を通りますと当旅館自慢の   混浴の露店が 有ります 景色も良く 皆さん喜ばれます  宜しかったら どうぞ 」 拓哉は 荷物を部屋へ運び込み  混浴を勧めてきた
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