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夏の盛りが過ぎ秋の涼しい風がそよぐ中、国王であるテンジルは、お忍びで郊外にある村を訪れていた。
この辺りを治める領主の報告で、「麦畑が魔物の襲撃で壊滅し、今年は麦を納められない」とあったからだ。なんでも、巨大な魔物が出るとか出ないとかで、村人は畑にも出たがらないという──。
麦は、この国にはかかせない主要な穀物。都に納められなければ、人々が飢えてしまうだろう。
そこで、テンジルは腹心であるカターリを連れ、その真相を確かめるべくやってきたというわけだ。
「報告にあった通り、畑が荒らされているようですね」
「うむ……」
テンジルとカターリは、金色の穂をつけた麦の畑を見渡しながら顔をしかめた。所々、何物かになぎ倒されたような跡があり、場所によっては食い荒らされているところも見受けられた。
「これでは、収穫できたとしても量が乏しくなってしまうな」
「どうなさいますか?」
二人がそんな話をしていると、集落の方から数人の村人が歩いてきた。手には鍬やら鎌を携え、辺りを警戒している様子がうかがえる。
「旅の方。お二人が腰に提げているもの、剣だとお見受けしますが?」
「うむ、そうだが?」
カターリが柄に手を添えながらそう答えると、中心にいた人物が一歩前に進み出て二人に頭を下げた。
「ワシはこの村の長をつとめているものです。どうか、お願いがございます。村に出没する魔物を退治してはくれますまいか?」
カターリは、指示を仰ごうとテンジルの方を振り向いた。テンジルは静かに頷き、自ら進み出た。
「我らもその噂を聞きつけやってきたのだ。その任、承ろう」
「ありがとうございます。魔物は日が暮れた頃から現れます。夜まで、我が家にてお待ちいただけますかな?」
二人は頷き、夜まで待つことにした。
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