悪者になりたかった月の夜に

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 一週間後の水曜の夜、佐野は再び外に出た。  今夜も歪な月が追いかけてくる。  行くあてのなかった足は、明確な行き先を絞って動いていた。  敷島を見つけたあの路地だ。    結局、学校にいる間は一度も声がかけられなかった。  敷島は完全に昼の顔をしていたし、佐野も同じだった。周囲の視線は佐野を上等な器にしまい込んでいる。それを壊す勇気がなかった。  佐野のはただの臆病だったが、敷島はどうだろうか。  他人から与えられるイメージを壊すの壊さないのなんて、彼女には関係がないのではないだろうかと思われた。  その根拠は、あの笑顔だ。  佐野が何を言いふらしても自分は傷ついたりしない。  それを警告するため、彼女は自分に笑いかけたのではないだろうかと佐野は思った。  他人の言動を恐れない。  敷島はまさしく化け物だ。  化け物は夜に歩く。  今夜はその化け物に遭遇できるだろうか。会えたら、お前は何者なんだと聞いてみたい。  月夜でなければ動けないのが悔しいが、その分溜めていた力が佐野にはある。  自分は狩猟者であり、敷島は獲物だ。  対決の瞬間のことを考えただけで、血の湧き立つ思いがした。
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