悪者になりたかった月の夜に

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 ◇   佐野は面食らった。 「こんな所で何してるの? 佐野くん」  遭遇したらこちらから話しかけようと思っていたのに、逆に見つかったような形になってしまった。  そもそも、本当に会えるとは──佐野は正直、思っていなかった。  敷島は一週間前と同じ路地にいた。まるで佐野を待っていたかのようだった。  彼女は黒いパーカーに丈の短いフレアスカートを穿いていた。清楚な制服姿しか見たことがなかったので、彼女の足の形が綺麗だということにも佐野はこの時まで気づいていなかった。  彼女がこんなにも夜が似合う声をしていたことにも。 「敷島こそ、何をしてんだよ」  彼女と言葉を交わしたのはこれが初めてに近かった。どんな口調で話せばいいのか佐野には分からなかった。とりあえず、相手に呑まれないように強気な態度を見せたが、ハッタリだと彼女に見破られている可能性は高い気がした。 「ちょっとね」  敷島はまたゾクッとする歪な笑顔を見せた。 「私より、佐野くんの方が違和感だよ。清廉潔白な一軍男子じゃなかったの?」  敷島にもそう見えていたかと思うと、佐野は少しガッカリした。 「敷島に言われたくないよ」 「……そうだね」  彼女はまた能面に戻った。触れられたくない傷を互いに撫で合ったようだった。  いつもならここで終わる会話だ。  しかし、今は月夜だった。  まだ終わらせない。   「暇なのか、敷島」  佐野の問いに、敷島は興味の視線を向けた。 「暇なら、二人でどこかに行かないか」    
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