39人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
「歌えるじゃん、佐野くん。すごいすごい!」
演奏後、ニキが再び佐野に握手を求めた。
「ニキさんのリードがいいからですよ」
「いや、声がいい! ヒデよりいいかも。こんなにうまいのに、なんで恥ずかしがってたの?」
佐野は笑いながら分かりませんと言った。今となっては本当に分からなかった。
敷島よりニキの方が何故か嬉しそうだった。敷島はクールな顔をして、ちょっと唇の端を上げただけだった。
「歌えないわけないよね。この間カラオケで97点出したって教室で羽佐間にバラされてたの聞いたよ」
羽佐間は佐野と仲のいい友達だ。口の軽いやつの顔を思い出して照れる。
「今後も俺たちとやっていかない? 佐野くんがやってくれるならヒデはクビにしてもいいよ」
「友達なのに?」
「俺は実力至上主義だからね」
二人の信頼を得たのだと思うと、佐野の心は敷島が叩く鍵盤のように弾んだ。
「嬉しいけど……水曜の夜じゃないとダメなんです。他の曜日は塾があるので」
「いいよ、水曜だけでも! やったな、渚!」
ニキが路上で堂々と敷島にハグをする。佐野はそれを見てちょっと複雑な気持ちになった。
やはりこの二人の絆は強そうだ。
すると敷島が迷惑そうにニキを押し返した。
「キモい」
「そこまで言わなくてもいいだろ? お前の兄貴だぞ」
拗ねるニキの言葉に、佐野は思わず「えっ」と呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!