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彼は真っすぐな目でわたしを見下ろしていた。
その眼差しは強く深く、心の奥底まで覗き込まれてしまいそうだった。
それに抗いたいと思うのに抗えないのは、その瞳に捕らえられてしまったからなのか。彼の瞳はあまりにも綺麗で魅惑的だった。
――これはもう運命よ!
頭の中に友人のセリフが急に浮かんできて、わたしはどきりとする。
好きな人ができる度に彼女がそう言って目を輝かせるのを、わたしはいつも羨ましいとか、すごいとかいう顔をして聞いていたものだった。しかしそれは、実は表面だけのことで、内心では冷めた目で見ていた。そんなに簡単に誰かを好きになるのは惚れっぽいせいだろう、節操がなさすぎると、どこか馬鹿にしていた部分があった。
だから、そんな私が誰かに一目ぼれするなんて、絶対にありえないと思っていた。
それなのに……。
人を好きになるのに理由なんてないことを、その感覚は言葉で説明できるようなものではないことを、わたしはこの時に知ってしまった。
自分でも信じられないほどすんなりと、心はそのことを理解し、受け入れていた。
このわたしがたったの一瞬で、初めて出会った誰かの虜になってしまうなんて。これが恋に堕ちるということなのか……。
わたしは彼の問いに答えることも忘れて。
彼は彼でわたしの答えを待って。
そうやって私たちは、どのくらいの間見つめ合っていたのだろうか。
少し強めの風が吹いてきた。
彼の着物の裾とわたしのワンピースの裾がはためいて、バサッと音を鳴らした。
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