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「本当に、あったんだ……」
自分で探してみても、誰かに聞いてみても、その存在の片鱗がまったくつかめなかった祖母の写真の場所。あまりにも見つからなかったから、もう諦めようかと思うこともあった。
それが今ようやく、こうやって自分の目の前にあるという感動に、わたしは気分が高揚した。この喜びを誰かに聞いてもらいたいという気持ちを持て余しながら、わたしは目を見張り眼前に広がる紅い光景を食い入るように眺めていた。
「ここのようだね」
彼の声を聞くまで、わたしは自分の世界に入り込んでいたらしい。
はっとして顔を上げた先に、わたしを肩越しに振り返って見る彼の切れ長の目があった。
トクン……。
わたしの胸が鼓動をひとつ打つ。
「あ、ありがとうございます」
その美しく光る目に見つめられていることが、急に恥ずかしくなった。そして自分の手がまだ彼の手と繋がっていたことに気がついて、わたしはカッと全身が熱くなった。
「あ、あの、手を……」
ドキドキしながらわたしは自分のものではないような声で、彼に言った。
「あぁ、失礼」
「いえ……」
彼が淡々と手を離したことを残念に思う自分に気がつき、わたしは心の中で自分をたしなめた。
はしたない――。
わたしは気を取り直してそもそもの目的を思い出し、彼に改めてこう申し出た。
「この場所の写真を撮らせて頂いてもいいでしょうか。ここがどこかは秘密にしますし、何かに発表するようなこともしません。あくまでも私自身の自己満足なので。……だめでしょうか」
「そうだね……」
彼はすんなりと長い指を形のいい口元に当てると、小首を傾げてわたしをじっと見つめた。
その黒い二つの瞳を前にして、わたしはそわそわと落ち着かない気分になったが、目を逸らさずにしっかりと見つめ返し、彼の答えを待った。
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