ー 写真 ー

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外出するにも気合がいる灼熱の夏がようやく落ち着き、頭上に秋らしい青空が広がるようになってきた。 そんな好天のある日、わたしはカメラを積んで車を走らせていた。周囲に見える田んぼのあちこちでは稲刈りが始まっていて、あぁ秋だなぁ、としみじみ思う。 とある場所で撮影を終えた後、気ままにドライブしていたわたしは、何気なく右手に視線を流してハッとした。 前後左右に他の車がいないことを確かめると、すぐさま路肩に車を停めた。全開にした窓から身を乗り出すようにして、見開いた目でその光景を確かめた。 ちょっと待って。この景色って、もしかして……。 その風景は、祖母が言っていたものとよく似ているように思えた。 奥に見えるなだらかな丘陵、大きな川、そしてそれに沿うように広がる雑木林。 この偶然に、わたしの心臓は興奮したようにドクンとドクンと大きな音を立てている。 「行くしかないでしょ」 わたしはフットブレーキを外してギアを入れると、車を発進させて林のある方へハンドルを切った。 幹線道路をわき道にそれて、対向車同士がやっとすれ違えるような細い道をさらに進む。田畑が広がるその一帯には民家らしき建物が何軒かあったが、家と家との間隔はかなり離れていた。 夜は寂しそうだけど、きっと星空がきれいに撮れそうだ。 そんなことを思いながらわたしは車を走らせて、目的の場所に到着した。
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