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その夜、わたしは夢を見た。
いつの時代のことなのかは分からない。とにかくずうっとずうっと昔のことだということだけは、分かった。
わたしが知っている着物とは違う、けれども着物に似た形の服を着た老若男女が、入り乱れるようにして何かから逃げていた。
彼らを追いかけ、追い立てるのは、鬼の形相の男たち。あれは刀なのか。私が知るものよりも大きくて長い刃物をぎらりと振り回していた。
それを振り抜き、あるいは横に振り払うたびに、しぶきのようなものがその辺りに飛び散った。よくよく見れば、それは赤い色をしていた。
地面に転がっている石や雑草、元々は白かったと思われる花までもが、その色にぬるりと染められていた。
それは映画や漫画でしか知らない、恐ろしい光景だった。悪夢だ。断片的な光景が、瞼の裏で次々と展開されていくのを止められない。
人々が髪を振り乱して泣き喚きながら方々に逃げ惑う中、一人の男の姿が見えた。
彼の足元には、血まみれの死体が何体も転がっている。そしてその本人も、体中すべてが血に染まっていた――。
その場面を最後に、私はがばっと飛び起きた。
ぎしぎしいいそうなほど、体中が強張っていた。赤くてぬるっとした何かがわたしにも飛び散ったわけはないのに、パジャマの袖で自分の顔を何度もごしごしとこする。
背中や首筋、胸元にひんやりとした感触を感じてはっとした。暑い季節でもないのに、全身にぐっしょりと汗をかいていた。
枕元の時計を見ると、間もなく午前三時。
どうしてこんな夢なんか――。
私は気持ちを鎮めようとして、大きく息を吸ったり吐いたりを何度か繰り返した。それから、汗で湿ったパジャマを交換するためにベッドから降りた。
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