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ー 幼馴染の家 ー
午後の講義が終わって帰り支度をしているところへ、良平がやって来た。
「よう」
短く挨拶の言葉を口にして、彼はわたしの前に立った。
「この講義、良平も取ってたんだっけ?」
「いや。廊下からお前が見えたから」
「ふぅん……」
わたしは首を傾げて幼馴染の顔を見上げた。
「なぁ、今夜も撮影とかに行くのか?」
良平に問われて、わたしはさりげなさを装って目線をはずした。
「うん」
もちろん、うそだ。少しだけやましいような気持ちになる。
良平はわたしの隣に腰を下ろした。
「何?もう帰るんだけど」
良平は頬杖をついて、わたしの顔をしげしげと見た。
「お前、俺に何か隠してないか?」
わたしはぎくりとした。けれど、できるだけ表情を読まれないようにと、荷物をまとめる手を慌ただしく動かした。
「なんでそう思うの?別に良平に隠し事なんてないよ。それに」
バッグのファスナーを締めながら続ける。
「良平に何でもかんでも話さなきゃいけないわけじゃないでしょ?」
そう言ってから、はっとした。余計な詮索をされたくないという気持ちから、トゲのある言い方になってしまった。いちいちあれこれ言ってくる良平をうっとうしいとも思ってしまった。
今のはちょっと感じ悪かったな――。
反省しつつ、わたしはそっと良平の顔色を伺った。
彼は怒ったような顔はしていなかった。けれど、どことなく寂しそうな、ほんのちょっと傷ついたとでもいうような目をしていた。
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