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「あの、ごめん。今の言い方は……」
わたしはおずおずと口を開いた。
「いや……」
良平は苦笑を浮かべながら立ち上がった。
「俺も悪かった。小さい時から一緒だから、つい。なんかいつもと違うって思うと、心配になるんだよな」
わたしの方が悪いことをしてしまったような気になって、つと目を逸らす。
「だから、真奈美に言われるんだよな、過保護、って。ま、自分でもそういう自覚はあるんだけどな」
良平は静かに笑った。
「そろそろ俺もそういうのやめないと、やばいよな」
私は強く頷いた。
「ぜひ、そうして。――じゃあ。私行くね」
早く帰って、彼に会いに行こう――。
心が急く。わたしはカバンを持つと、急いで席を離れようとした。
「あ、ちょっと待て」
それを良平が引き留めた。
「何?」
「昨日さ、お前、うちに来なかっただろ?母さんがお前のこと連れて来いって、うるさいんだよ」
「あぁ、そう言えば……」
昨日は是周に会いに行ったのだ。
「ほら、うちの母さん、お前のこと大好きだからさ。それに、今はお前が一人暮らしの状態だからって、心配してるんだよ」
「うん、それはありがたいんだけど……」
「こないだ顔見せたの、いつだっけ。だいぶ前だったろ?そろそろ顔を見たいんだってさ」
「うん……」
良平のお母さんの気持ちはとても嬉しい。だけど。
うつむいたわたしの顔を覗き込んで、良平は訊ねた。
「その撮影とやらは、今日じゃないと絶対にだめなのか」
そう問われて、一瞬動揺した。それは撮影という名のうその予定だから。本当は、是周に会いに行く。だから。今日じゃないと絶対にだめ、というわけではない。ただただわたしがそうしたいだけの予定なのだ。
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