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その時良平のスマホが鳴動した。
「悪い、電話だ」
良平はカバンからスマホを取り出すと、わたしに背を向けて電話に出た。小声で話している。
わたしはなんとなく帰るきっかけを失ってしまう。仕方なく良平の電話が終わるまで、少し離れた場所に移動して待っていた。
すると良平が振り向いて、スマホをわたしの方に向けて言った。
「みやび、母さん」
「えっ」
予期していなかった展開だ。しかし、ここで電話に出ないわけにもいかない。わたしは良平からスマホを受け取り、耳を近づけた。
―― みやびちゃん、元気だった?
電話の向こうから、優しい声が聞こえてきた。久しぶりに聞くその声の主に、わたしは無沙汰を詫びた。
「おばさん、お久しぶりです。昨日はごめんなさい。せっかく食事に誘ってもらったのに……」
―― いいのよ、みやびちゃんも色々忙しいだろうからね。でも、やっぱりなかなか顔を見られないのは、おばさん寂しいわ。
「ごめんなさい……」
―― ねぇ、みやびちゃんの声を聞いたら、おばさん、会いたくなっちゃった。
「え」
―― 今夜も用事があるんですって?ねぇ、遅くなってもいいから来られないかしら。あ、その前の方がいいかしらね。
「あの、でも」
―― ね、お願い。少しでいいから、顔を見せてちょうだい。男の子なんて、ほんと、華がなくてつまらないのよ。
女の子が欲しかった――。
そう言って、小さい頃からわたしを可愛がってくれたおばさん。母と仲がいいからという理由を除いても、わたしも彼女のことが大好きだ。しかし、時々ちょっとだけ強引になるところだけは、どうも苦手だ。
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