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おばさんの勢いに呑まれて、わたしの口からは、とうとう言葉が出てこなくなった。それに、これほどまで熱いラブコールを送られてしまっては、行きません、とは言いにくい。わたしは彼女への抵抗と、今夜是周の元へ行くことを諦めた。
「……それじゃ、久しぶりにおばさんの手料理、食べに行こうかな」
―― 嬉しいわ!みやびちゃんの好きなもの、たくさん準備しておくから楽しみにしててね!
電話の向こうから、大喜びしている彼女の様子が伝わってくる。
「あの、そんなに気を遣わないで」
と言うわたしの言葉を聞く前に、電話は切れた。
わたしは苦笑いを浮かべながら、良平にスマホを返した。
「聞いての通り、お邪魔することになったわ」
良平もまた苦笑を浮かべながらスマホを受け取る。
「予定、キャンセルして大丈夫なのか」
もしかしたら大丈夫ではないかもしれない――。けれど、それを悟られないように気をつけながら、わたしは曖昧に頷いた。
「うん」
申し訳ないという顔をする良平に、わたしは笑って言った。
「心配してくれてるおばさんの気持ち、嬉しいし」
良平は深々とため息をついた。
「悪いな。うちの母さん、強引で」
「わたし、おばさんのこと大好きよ」
良平は肩をすくめた。
「本人に直接そう言ってやってくれ。喜ぶぜ」
良平とそんな会話を交わしながら、わたしは心の中で是周のことを思い浮かべていた。
明日は必ず行くから――。
是周に届くとは思わなかったが、私は心の中で強くそう思った。
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