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一度自宅に戻ってから、わたしは徒歩で十数分ほどの場所にある良平の家に行った。
インターホンを押すと良平の声がして、ほとんどすぐにドアが開いた。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
勝手知ったる幼馴染の家ではある。が、わたしは行儀よく上がり框で挨拶をして、廊下に上がった。良平の後に続いてリビングに入って行くと、早速美味しそうな匂いに鼻をくすぐられた。
「こんばんは、おじゃまします」
「みやびちゃん、いらっしゃい!」
対面キッチンの向こう側から、嬉しそうな声が聞こえてきた。
わたしの顔も自然とほころぶ。
「お元気でしたか?今日はお招きいただいてありがとうご……」
最後まで言い切る前に、おばさんに遮られた。
「いやだわ、そんな他人行儀な言い方。いえ、まぁ、他人ではあるけど、みやびちゃんはもう身内も同然じゃないの。それにしても、まぁ……。もうすっかり素敵な女性って感じになっちゃって。嬉しいような、寂しいような、なんだか複雑な気持ちだわ」
お茶をテーブルに運びながら、おばさんはそんなことを言う。
「素敵な女性、ねぇ……。まだそこまでは手が届いていないみたいに見えるけどな」
「もうっ、良平はいつも減らず口ばっかり。そんなことばかり言ってると、そのうちみやびちゃんに嫌われるんだからね」
「はいはい。で、母さん、料理は並べていいのか」
「あ、お願い」
「私も手伝うよ」
「いいよ。お茶でも飲んでゆっくりしてろ。あ、そろそろ渉が帰ってくる頃だな」
そんなことを言っていると、玄関のドアがバタンと音を立てた。
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