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家って感じがして、いいなぁー―。
こういう賑やかさに触れるのが久しぶりで、わたしはほっこりと温かい気持ちになった。
その一方で、ふと是周のことが思い出された。彼はあの家で、言葉を話せない雅允と二人、普段はどんな風に過ごしているのだろう。彼は、彼らは、こういう賑やかさや温かさを知っているのだろうかと、そんなことが気になった。
「どうかしたの?」
渉の声が聞こえて、わたしははっとした。ほんの少し、ぼんやりしていたらしい。
着替えを終えた渉が、いつの間にかリビングに戻ってきていた。
「何でもないよ」
私は急いで笑顔を作った。
渉はわたしのそばにつと寄ってくると、悪戯っぽい目をした。
「ねぇ、みやびちゃん。好きな人、ほんとにいないの?」
「えっ」
私は動揺しかけたが、かろうじて踏みとどまった。
「さっきも言ったけど、いないよ」
「えぇ、ほんとに?」
渉は首を捻った。
「みやびちゃんってもともと美人だけど、なんかまたきれいになったなぁ、って思ったからさ」
「渉くんたら、そういうセリフ、いったいどこで覚えてくるの?そんなに褒めても何も出ないんだからね」
渉はさらに何か言いたそうな顔をしたが、そこに良平の声が割って入ってきた。
「おい、渉。これ並べて」
「はいよ」
渉が良平から皿を受け取りながら、ぼそりと言うのが耳に入った。
「ぼやぼやしてると取られるっつうの……」
「え?何が?」
思わず訊ねるわたしに、渉はぱっと笑顔を作り、おどけたように言った。
「何でもな~い。ひとり言」
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