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ー 不安 ー
その翌日。
わたしは午後の講義が終わると、手早く帰り支度をして教室を出た。
この日の講義は真奈美も良平も選択していない科目だったこともあって、珍しく二人に掴まることもなく、スムーズに帰路につくことができた。
今日は彼に会いに行かなくては。そして謝ろう。昨日の約束を守らなかったことを――。
わたしは固く心に誓いながら、家に戻った。
まだ夕方にもならない時間だったが、出かける前に軽食を取ることにした。
食べ終えると後片付けをし、家中の戸締りを確認した。そろそろ出かけようかと立ち上がり、いつもの習慣でサイドテーブルの上の定位置に置いてあるカメラに手を伸ばす。しかし、すぐにその手を引っこめた。
「いらないな」
今日のこれからの外出の目的の中に、撮影はない。
是周に会って、約束を守れなかったわたしを許してもらうことが、最大の目的なのだ。
わたしはお気に入りのワンピースに着替えた。念入りに身だしなみを整えて、鏡の中の自分の姿を確認する。
少しは、あの人の傍にいてもおかしくないように見えるかな――。
是周の目に、この姿が多少なりとも好ましいものとして映ってほしい。もしも、この先はもう会わないと言われることになったとしても、最後にきれいな自分を彼の記憶の片隅にでも残しておいてもらえたらと思う。
最悪の未来を想像してしまい、目尻に涙が浮かんできそうになったが、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
行こう――。
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