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是周の足がさらに一歩わたしに近づいた。
緊張する――。
わたしは胸の前で両手を固く組み合わせた。
「本当にごめんなさい……」
そう言った途端、わたしの体はふわりと包み込まれた。
「もう、来てはくれないのかと思った……」
頭上から是周の声が降ってきた。
胸が苦しくなったのは強く抱きしめられたせいなのか、それとも是周の言葉のせいなのか。彼のその声は、僅かに震えているように思えた。
わたしは恐る恐る彼に訊ねた。
「怒って、いませんか?」
「怒る?どうしてそう思うの?」
是周は腕の中のわたしに微笑んだ。
「怒るわけがない。ただ、不安だった。でも今は」
彼はわたしを強く抱き締めた。
「嬉しいよ。また、会えた」
その言葉は彼の心からの声に思えて、わたしは安堵した。
「よかった……」
わたしは彼の胸元をきゅっと掴んで、頬を寄せた。
「嫌われたんじゃないかと思ったんです。約束を守れない人間は信用できない、って。もう二度と来るなと言われるんじゃないか、って……」
是周の手がわたしの髪を撫でる。
「きっと何か事情があったのだろうと思っていたよ。そもそも、それくらいのことで、みやびのことを嫌いにはならないのに」
「本当ですか?」
「本当だよ」
見上げるわたしに彼は口づけ、それから腕を解いて肩を抱く。
「行こうか」
わたしは是周にぴたりと寄り添って、彼の住まいへと足を向けた。
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