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「今日はすいぶん身軽だね」
前回通されたと同じ部屋に促され、向かい合わせに座すと、是周は改めてわたしの姿を見て言った。カメラを持っていないことを言っているのだろう。
「今日は是周さんに謝ることが目的だったから」
「そうか」
微笑みを浮かべて彼は頷き、それからわたしの方へ腕を伸ばした。
「ここに来てくれないか」
「はい」
わたしは素直に答えて立ち上がると、どきどきしながら彼の傍まで寄り、膝を折って正座した。
そんなわたしを見て、彼はくすっと小さく笑った。
「正座か」
「変、ですか?」
わたしはどぎまぎして、彼を見た。愉快そうな笑顔だ。
こういう時、どうすればいいのか分からなかった。本当は、彼の腕の中で彼の体温を感じたい――そう思っていた。けれど恥ずかしさの方が勝っていて、とてもそんなことを口には出せなかった。自らもたれかかるようなこともできない。
しかし、是周の手がわたしの腕を引いた。
わたしはそのまま崩れるように、彼の胸元に引き寄せられた。
その腕でわたしの体を包み込んで、彼は言う。
「この方がいい。みやびを抱いていると、自分は今、確かにここに在るのだと思えるから」
わたしは彼の声の響きにうっとりと耳を傾けた。
カタンと小さくきしむ音が聞こえて、はっとする。
「あぁ、ありがとう。そこに置いてくれ」
雅允がお茶を用意して持ってきてくれたようだ。
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