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調子が悪いのかしら?
わたしは首を傾げながら、スマホをバッグに戻した。
「どうかした?」
「あ、いえ。今は何時頃なのかな、と思って」
是周は立ち上がって障子を開けると、しばらく夜空を見上げていた。
「真夜中、かな」
「それじゃあ、わたし、そろそろ帰らないと……」
引き留めてくれないだろうか――未練がましくそう思いながら、わたしは立ち上がった。
「着替えます」
わたしは是周に背を向けて、着物を脱いだ。足元に用意しておいた下着を身につけ、ワンピースを着る。
是周がわたしの傍までやってきた。
「すまない。こんな時間に帰そうとして……。君をここにとどめてしまいそうで怖いんだ」
彼はわたしを背中から抱き締めた。
「そんなこと……」
それでもいいのに――。
そう言おうとして、はたと気づいた。
とどめてしまいそうで――?
今、そう言ってくれた。その言葉がもし彼の本心だとすれば、今はそれだけでも十分だと思えるのだけど……。
わたしは体の向きを変えて彼を見上げた。
「是周さんも本当は、わたしとずっと一緒にいたいと思っている?」
そう訊ねると、彼はこくんと頷きわたしの髪に顎を埋めた。
「あぁ」
「また明日、来てもいいですか?」
「もちろんだよ。会いたい」
彼が唇でわたしの額に触れた。
わたしはそれに応えて、彼の体にぎゅっと腕を回した。
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