198人が本棚に入れています
本棚に追加
「こんな場所があったなんて、まったく知らなかったな」
わたしはひとり言を口にしながら、改めて目の前の景色と自分の周囲をゆっくりと見回した。
目の前に横たわり流れるのは広々とした大きな川。流れの途中で時々気まぐれにはじけ飛ぶ水しぶきが、午後の光を受けてきらめいていた。その向こう側には、なだらかな稜線が続く小さな山がいくつか連なっていて、最も手前の山から川岸に向かって木々が広がりを見せている。そして足元に視線を移せば、土手というほどの高さはない緩やかな長い斜面が川べりへと続いていた。
わたしは首を反らせて青い空を見上げた。
月の出とか天の川なんかの夜空撮影に良さそうな感じの場所だ。だけど夜にここまで来るのはさすがに周りが淋しすぎて、一人では無理だろうな。あぁ、それにしてもあの山も、紅葉の時期はきっと綺麗だろう。
そんなことをつらつらと想像していたら、うずうずしてきた。
「せっかくだから、ちょっとだけ撮って行こうかな。また来られるか分からないし」
わたしはカメラを取り出して首にぶら下げ、荷物を肩にかけ直す。
「どこから撮ろうかな」
右へ左へと視線を動かしていたわたしだったが、ある一点で目の動きを止めた。
「家?それとも、小屋?でも……」
それは、わたしが立っている場所からやや下流側に、林を背にするように建っていた。
「家」と呼ぶには小さく、「小屋」と呼ぶには大きい質素な建物。それは、例えば「庵」、そんな風情ある呼び方が似合いそうな佇まいを見せていた。
最初のコメントを投稿しよう!