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とにかく腐った心を思い出したジーニアであるが、このジーニアという女性はジェレミーの妹という立場だけではない。実はこのジェレミーとグレアムのシナリオにおいて、当て馬という立派な役割があるのだ。グレアムが自分の気持ちに気付くための立派な当て馬。
ジェレミーが妹を自慢し可愛がっているため、その話を耳にするたびにグレアムはどす黒い何かが蠢くような感覚に捉われる。それが嫉妬という感情であることに気付いたのは、学院の卒業パーティだ。
学院の卒業パーティとはその名の通り、王立学院を卒業する生徒たちを祝うパーティである。騎士団に所属するジェレミーとグレアムはそれの警備を担当し、隊長であるジェレミーは警備責任者という責任ある任務につく。
この卒業パーティというイベントがどのシナリオを進めるかの分岐点になるのだが、ジェレミーとグレアムルートは、ジーニアが同級生の男の手をとってダンスを踊るところから始まる。
ダンスを終えその同級生から飲み物を手渡されてそれを口にしたジーニアは倒れてしまう。そう、その飲み物には毒が仕込まれていたのだ。ジェレミーの隊長就任を面白く思わないクソ共が、彼の妹を狙ったというクソのような展開である。このようなクソ展開はゲームの世界のお話であるため許して欲しい。
さて、妹が狙われたことに気付いたジェレミーだが、犯人はその同級生の男の兄であった。すぐさまグレアムがそれに気付き、その男を捕らえる。
しかし、ジーニアは残念なことに命を失ってしまう。
妹を失い、悲しみにひれ伏すジェレミーを励ますのがグレアム、という流れで。
――あれ? 私、死ぬんだっけ?
と、ジェレミーとグレアムシナリオを思い出してがっかりするジーニアの中の人。
二人の絡みは見たいけれど、死んだら見れないでしょ、という一人ツッコミ。
「どうかしたのか? ジーン。今日は様子がおかしいぞ」
そんな妹の妄想に気付いたのか、いや、気付いているわけはないのだが、心配そうに視線を向けてくる兄のジェレミー。
「いいえ。私も、もう少しで卒業かと思うと、少し寂しい気がしてしまって。その、卒業パーティの警備は、お兄さまが?」
「ああ、そうだ。ジーンたちの学院生活最後のパーティを安心して楽しめるように、ばっちり警備するからな。なんと、驚くなよ。俺が警備責任者だ」
まあ、さすがジェミーね、なんて母親は喜んでいる。だけど、ジーニアは素直に喜べなかった。
――兄の恋路の邪魔をしてしまう妹をお許しください。だって私、死にたくないんです。
今、兄に言えることはそれだけだった。
――せっかく大好物の世界に転生したのに、それを目にすることなく死んでしまったら、死ぬに死にきれない。むしろ、もう一度転生したい。っていうか、この世界のループでいいんだけど。
そうやってジーニアが妄想に耽っていうるうちに、家族で兄の就任を祝うケーキを食べる会は、お開きとなった。
いつの間にか父親と兄はケーキではなく、高級なお酒を手にしているし、それに呆れて母親はこっそりと自室に戻っているし。
だからジーニアも母親が姿を消してから、同じようにこっそりと自室に戻った。
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