それはメガネ攻めと健気受けですね

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 そもそもなぜジーニアがクラレンスから口づけをされなければならないのか。まったくわからない。クラレンスのことは嫌いではない。むしろ好きだ。目の保養として。それ以上でもそれ以下でもない。シリルとのツーショットはもっと目の保養になる。 「恥ずかしい。ということは、少しは私を意識してくれている、ということだろうか?」  ――少しだけでなく、かなり意識はしているけれど……。あぁ、助けてお兄さま、ヘレナ……。これは一体、何ルートなの?  ジーニアが答えられずにいると、部屋の外から騒がしい声が聞こえてきた。ジーニアははっと顔を上げるし、クラレンスは忌々しく「ち」と舌打ちをする。 「相変わらず、シリルはタイミングの悪い男だな」  と彼が呟いたことにジーニアは気付く。  ――もしかしてここは、シリル様に感謝すべきところ。 「クラレンス様。王宮魔導士のジュード様をお連れしました」  ――まさかの、ジュード様。って、え、ミックまでいる……。と、尊い……。  ジーニアは思わず口元を手で押さえてしまう。それを目ざとく見つけたクラレンスは、気分が悪いのか、と声をかけてくる。 「あ、すみません。突然のことで驚いてしまいました」 「そういうことだ。シリル。私は、王宮魔導士に連絡をしろと言っただけだ。誰がここに連れてこい、と言った?」 「殿下。そのように声を荒げないでいただきたい。シリル殿から話を聞いて、オレの方からすぐに会いたいと申し出たのだ」  クラレンスとジュードが対峙する。そしてそれぞれの後ろには誘い受けと健気受けがいる。  ――ちょっと待って、何、この展開。このカップルたち。もう、心臓が五月蠅い。  ドキドキと違う意味で高鳴っている胸元に、ジーニアは手を当てた。苦しくて、呼吸ができない。 「む。どうした」  ジーニアの異変に気付いたのはジュード。 「ジーニア嬢。苦しいのか?」  そう、なぜか先ほどから苦しい。 「むっ」  ジュードが眼鏡の向こう側で目を細めた。 「呪詛の場所を見せていただきたい」 「ジーニア嬢。脱がせるぞ」  クラレンスが許可をもとめてきたが、それに対して「はい」も「いいえ」も答えられない程、胸が痛くて、呼吸が苦しかった。 「シリル、手伝ってくれ」 「失礼します」  お腹を追って身をかがめていたジーニアに、クラレンスとシリルの手が伸びて、シュミーズドレスの肩をずらす。胸元の下についているリボンも緩める。 「ジーニア嬢、もう少し広げたいから、腕をこちらに」  四対一ってどんなプレイ、と思う余裕も少しはあった。だから、クラレンスの言葉に従って、ドレスの襟ぐりから左腕を通すことができた。これではまるで、前世の時代劇に出てくる将軍みたいな恰好ではないか。 「……」  ジーニアの傷口を見たジュードは、黙ってそれを観察している。クラレンスも、ほんの数十分前にそれを見たはずなのに、そのときよりも皮膚が黒ずんで、それが広がっているように見えた。 「時間と共に呪詛が広がり、それを発動する類のものだな。触れてもいいか?」  ジュードの言葉に、ジーニアはやっとの想いで頷く。  つつっと彼の冷たい指が、傷口付近を撫で上げる。クラレンスに薬を塗ってもらっている時とは違う感触。 「どうやら、呪詛が発動し始めたようだ。このままでは、この女はあと十日で死ぬ」
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