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まさかの死の宣告。一瞬、ジーニアは目の前が真っ暗になってしまった。
「おい、しっかりしろ」
クラレンスの声で、引き戻される。
「あ、はい……」
返事をしたとき、呼吸が楽になっていることにジーニアは気付いた。
「あっ、あっ……」
と、さらに、前世で見た某有名アニメに出てくる変なあやかしのような声が出てしまう。
「今すぐ呪詛を解くことはできないが、呼吸が楽になる魔法をかけた。対処療法というやつだな」
ジュードが腕を組みながら言葉を放った。眼鏡がキラリと光って、その目元はよく見えない。
「呼吸は楽になっただろ」
「あ、はい。ありがとうございます」
そう、呼吸は楽になった。それでも、まだ胸は苦しいし、痛む。
「だが、先ほども言った通り、これは一種の対処療法だ。呼吸を楽にしているだけであって、呪詛そのものが解けているわけではない。だから、何もしなければ、お前は十日後に死ぬ」
ワニでもあるまいし、とジーニアは心の中で思ったのだが、なぜそう思ってしまったのか、理由はわからない。
「ジュード様、もう少し言い方に気を付けてください」
はっと、ジーニアは顔を上げた。今の声は、恐らくミック。
「言い方だと? オレは事実を口にしただけだ」
「それが彼女を傷つけるのです。もう少し、彼女の気持ちに寄り添ってくださいと言いたいのです」
「なぜオレが彼女の気持ちに寄り添う必要がある」
「例えばジュード様が、いきなりお前は十日後に死ぬ、なんて言われたらどう思いますか?」
「どうもしない。十日後に死ぬ理由を突き止めて、対処するだけだ」
「それはジュード様だからできることであって、ジーニア嬢にはそれができません」
「だったら、オレがなんとかすればいいのだろう? オレが解呪方法を探す。それで問題ないな?」
ジュードが顔を近づけてきて、それはジーニアが「はい」と言わなければ退かないような勢いだった。
ジーニアが頷くのを確認した途端、ジュードの肩を掴んだのはクラレンスだった。
「近すぎるぞ、お前。ジーニア嬢が怯えている」
「怯えている? 彼女はそんなたまではないだろう。むしろ、この状況を喜んでいるのではないか?」
――いえいえ、めっそうもございません。呪われている状況を喜んでいるとかはありません。
――喜んでいるのは、この絡みだけです。
とは口が裂けても言えないジーニアであるため、ジュードの言葉にはだんまりを決め込んだ。
「おい、ジーン」
勢いよく部屋の扉を、ノックもせずに入ってきたのはもちろん彼女の兄であるジェレミー。ここに来てからジーニアのことをジーンと呼ぶのは兄であるジェレミーと心の友のヘレナだけ。
「ジェレミー殿。もう少し静かにお願いいたします」
シリルの冷ややかな声は、熱いジェレミーとは正反対のように聞こえた。
「隊長、冷静に」
ジェレミーの後ろに控えていたのはグレアム。
――ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って。八時じゃないのに、全員集合しちゃったの?
ジーニアの脳内は大パニックである。まさかの全員集合。どこのカップルを拝めばいいのか、もはや処理が追いつかない。
「すまない。妹が倒れたと聞いたもので……。って、元気じゃないか」
「なるほど。ジェレミー殿の妹君か」
ジュードはふとジーニアに視線を向けた。
「そう言われれば、似ているな」
どうやらジェレミーとジーニアが兄妹であることはあまり知られていないらしい。ここにいるジーニアは身を挺してクラレンスの命を守った女、という扱いのようだ。
「それで、ジェレミーを呼んだのは誰だ?」
クラレンスの声も冷ややかだった。
「僕です。先ほどジーニア嬢が苦しんでおられたので、至急、身内であるジェレミー殿へ連絡すべきであると判断しました」
シリルが言えば、クラレンスも「そうか」と納得する。これぞ信頼関係。だが、いつの間に兄へ連絡をいれたのか。恐らく、外の誰かと通話できる何かの類を持っているのだろう。
「それで、妹は? 死にそうなほど苦しんでいる、と連絡を受けたのですが……」
ジェレミーにとっては目の前の妹を見たら、騙されたと思ってしまうだろう。
「妹君の命はあと十日程。先日の襲撃に呪詛が込められていた。その呪詛は時間経過と共に発動するもので、それが発動した」
ジュードの淡々とした説明に、ジェレミーは目を白黒させるしかない。
「今は魔法でその症状を抑えているだけだ」
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