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「ジーンの呪詛というのは、どうしたら解けるのですか?」
ジェレミーは負けじとジュードに詰め寄った。
隊長、というグレアムの声が聞こえてくる。
「それをこれから調べるところだ。暑苦しいから離れろ」
詰め寄ったジェレミーを必死で引き離そうとしているジュード。それを見ているミックは軽く息を吐いているし、グレアムはジェレミーを止めようと腕を伸ばしているし、クラレンスとシリルは何やら真面目な顔で話し合っているし。ジーニアには何が何だかわけがわからなくなってきた。
「う~ん」
と唸ってジーニアが額に手を当てれば。
「どうした、ジーン、頭が痛いのか?」
「おい、シリル。ジーニア嬢に痛み止めを」
「まさか。そこまで呪詛が広がっているのか?」
と三攻めそれぞれ好き勝手に口にする。余計に頭が痛くなりそうだ。
「どうやらジーニア嬢はお疲れの様子。そろそろ、我々も撤収した方がよろしいのではないでしょうか?」
と穏やかに言葉を発したのはシリルだ。さすが誘い受け。とジーニアは思っているが、ここでそれは関係ない。
「そうだな。私たちは一度戻ろう。ジーニア嬢、少し休むがいい」
「でしたら、その。兄と話をさせてもらってもよろしいですか? やはり、その、家族なので……」
クラレンスが鋭い視線でジェレミーを見た。やはり攻め同士ならではの、何かがあるのだろうか。ここにヘレナがいたのであれば、間違いなく「んなわけ、あるか」とツッコミをいれてくれただろうに、残念ながら彼女はいない。
「私たちは、戻る。何かあったら、遠慮なく人を呼びなさい」
クラレンスは言うが、この場合、呼びつける相手として正しいのは侍女のルイーズだろう。間違えてもクラレンスを呼びつけてはならない、とジーニアの第六感が囁いていた。
ジーニアを研究対象としてもう少し観察したいと騒ぐジュードは、ミックに引きずられるようにして部屋を出て行った。グレアムも、ジェレミーとジーニアに頭を下げると黙って部屋を出ていく。
部屋に残されたのは兄妹二人きり。
ジェレミーはジーニアの寝台の脇に置いてある椅子に腰かけた。先ほどまでクラレンスが座っていた場所だ。
「ジーニア。具合はどうなんだ?」
先ほどまで人がたくさんいたから、聞きたくても聞けなかった。ジュードが口にしていた呪詛の件も、理解はできるが納得ができなかった。
「先ほど、ジュード殿が言っていたことは本当なのか? その、お前の命があと十日程というのは」
「ジュード様がおっしゃるにはそのようですが。私も、まだ実感が湧きません。ただ、今はこうしてお兄さまとお話ができていますが、先ほどまでは呼吸するほども苦しくて、胸が痛くて、意識を失うくらいだったのです」
だからジェレミーが呼ばれた。妹の急変、ということで。
「今、私が何事もなくこうやってお兄さまとお話ができるのも、ジュード様のおかげなのです」
「そうか……」
「お兄さま。もし、十日後に私が本当に死んでしまったら……」
――グレアム様とお幸せに……。
「お父さまとお母さまには、御礼を伝えていただけませんか? その、私、お父さまとお母さまの娘でよかった、と」
――死ぬ前に、三カップルを拝むことができた……。
「ジーン。ジュード殿は、お前のそれの解く方法を調べてくれると言っていたじゃないか。だから、諦めるな。諦めたらそこで試合終了だ」
――どこかで聞いたセリフだわ。どこだったかしら……。
「ありがとうございます、お兄さま。やはり、お兄さまとお話ができてよかったです。ちょっとだけ前向きになれました」
「ああ、俺もだ。ジュード殿を信じよう」
二人は笑顔で頷いた。
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