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――なぜ、クラレンス様が?
勢いでジュードに依頼してしまったが、答えたのはクラレンス。もしかして王族であるため、そういった閨教育について詳しいのだろうか。もしかして伝手があるのだろうか。
ジーニアはじっとクラレンスを見つめた。だが、クラレンスに視線を向けているのは何もジーニアだけではない。ここにいる、全てがクラレンスを見ているのだ。
「何だ。君たちは」
じっと見られていることに、クラレンスも気付いたのだろう。
「いえ。クラレンス様が、わかったとおっしゃったので、その続きを期待しております」
シリルが視線を逸らさずに答えた。二人の視線が絡み合い、熱い眼差して見つめ合っている。かのように、ジーニアからは見えた。
「続きも何もない。ジーニア嬢が必要なものがあるというから、それについてわかったと答えただけだ」
「では、クラレンス様がそのジーニア嬢が口にした『道具』というものを準備されるわけではないのですね?」
「お、お前は……。な、何を言っている」
ぶわっとクラレンスの顔が真っ赤に染まった。あのクラレンスが、だ。だが、すぐに真顔に戻る彼は、いろいろと感情を制御する方法を身に着けているのだろう。
「だが。ジーニア嬢が私を庇って、私の代わりに呪いを受けたと思っている。それの責任を私がとるべきではないのか」
ゴクリと固唾を呑んでここにいる皆がクラレンスを見守っている。それはもちろんジーニアも同様。
「ジーニア嬢。私が君の破瓜を貫こう」
ジーニアは一瞬、息の吸い方を忘れてしまった。ふがっ、ふがっと喉が鳴ってしまったのはそのためだ。
「ジーニア、大丈夫か」
ジェレミーはうまく呼吸ができない妹を気遣ってくれるが、肝心の妹であるジーニア本人は、ゲホゲホと咳込んでいた。
「今、何か。おかしなことが聞こえたような気がしたのですが……」
「おかしなこととはなんだ?」
腕を組んだまま、クラレンスがジーニアを見つめてくる。
「えっと。クラレンス様が私の破瓜を貫くとかなんとか……」
「言った。それで君の呪いが解けるなら」
「つまり、クラレンス様に処女を捧げろと。そういうことになりますか?」
「そういうことになるな」
ジーニアは隣の兄を見て、助けを求めた。だが、ジェレミーはジーニアを見ようとしない。
「いやいやいやいや、ダメです。クラレンス様だけはダメです」
「なぜ、私だけは駄目なのだ? 私を助けてくれた恩人を助けたいと思うのは、自然な流れだろう」
「そういう流れもなんとなくわかりますが。ですが、ダメです。ね、お兄さま」
ジェレミーがやっとジーニアの方を向いた。だが、その顔は怒っている。なぜ、ここで声をかけたのか、と。
「駄目……ではないかもしれない……」
いきなりジェレミーがそんなことを口にした。ジーニアはジェレミーを見るし、他の五人の視線も彼に集まる。
「殿下から、ひと時の甘い夢を貰ったでも思っておけばいいのではないか?」
――お兄さまったら、苦し紛れに適当なことを言っている。
ジーニアは、その言葉が兄の本心ではないことにすぐに気付いた。なぜなら、彼の目が泳いでいるからだ。不安定に、きょろきょろとどこかをさ迷っている。
「おい。ジェレミー。君は私をなんだと思っている? まさかジーニア嬢の純潔をもらったら、彼女をぽいと捨てるような男であるとでも思っているのか?」
「違うのですか?」
思わず腰を浮かせてしまったのはジーニアだ。
「先ほどから言っているだろう。責任を取る、と」
「クラレンス様……?」
怪訝そうに彼を見つめているのは、もちろん誘い受けことシリルである。
「君の純潔をもらい受けた以上、責任はとる。私と結婚して欲しい」
――ここでまさかの公開告白。
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