結局スパダリと元腐女子ですか

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 無事、呪いが解けたジーニアであるが、正式にクラレンスの婚約者となっていた。  つつがなく手続きは行われており、国王も王妃もジーニアを快く受け入れてくれた。むしろ、あのときのクラレンスを、身体を張って助けてくれた彼女に感謝の気持ちを示していた。  そしてジーニアの父親が元第一騎士隊の隊長の彼であったと思い出せば、「納得、納得」と頷いているのだった。  そうやってジーニアの周囲も少々騒がしくなっていたが、やっと落ち着き始めた頃。  クラレンスのはからいでヘレナと会うことができた。クラレンスはただ単純にジーニアに喜んでもらいたいという気持ちがあっただけ。 「あぁ、ジーン」  ジーニアの姿を見た途端、黒の騎士服に身を包んだヘレナがぎゅっと抱きついてきた。 「苦しいわ、ヘレナ」 「ジーンが無事で良かったわ。それに、今では立派にクラレンス様の婚約者様だし」 「もう。やめてよ」  そんな二人を気にもとめず、ルイーズは黙って自分の仕事をこなしている。  紅茶の香りが部屋に漂い始めたのを合図に、二人は並んでやっとソファに座った。ルイーズは立場をわきまえているため、控えの間に下がる。 「本当に、ジーンが生きてて。よかった……」  むしろヘレナがヘレナをやり直しているのは、ジーニアを死なせないために、という理由だったはず。だから彼女は卒業後に騎士団入団を決めたのだ。 「あれ?」  ジーニアは気づいた。  結局、今進んでいるルートが第一から第三のどのシナリオとも異なっているのだ。 「もしかして、ヘレナのせい? ヘレナのせいなの?」 「何が?」  ヘレナは両手でカップを包み込んで、のんびりと紅茶を嗜んでいた。 「今のこのルートよ。なんで、私がクラレンス様とくっついてるの? 本来であれば、このポジションはシリル様のものよね」 「やっぱり、あれよ。あれだからよ。究極のプレミアム裏ルート。あの六人が幸せになるルート」  ヘレナはカップを置くと、ワッフルに手を出した。王宮料理人の自慢の一品である。それを食べ終えてから、言葉を続ける。 「そうそう。今日、ジーンに会いにきたのは、報告があったからです」 「なんの?」 「私、婚約しました。わぁ。パチパチパチパチ」  ヘレナは自分で拍手をしている。 「うっそ。おめでとう。え? 誰と?」  ジーニアは身体をヘレナの方に向け、恋する乙女のように胸の前で両手を組んだ。 「グレアム様です!」  ヘレナが腰に手を当て、胸を張って答えている。 「え?」 「だから、グレアム様……」 「え、えぇええええ?! なんで、どうして? ジェレグレは消えたの? え、お兄さまは?」 「え? ジーン。聞いてないの?」 「何が?」 「ジェレミー様のことを……」  ヘレナがジーニアを見る視線が「可哀そうな子」と言っている。  ヘレナがきょろきょろと辺りを見回してから、右手を「こいこい」と振ったのでジーニアは顔をヘレナの方に近づけた。 「ジェレミー様ね。ルイーズとお付き合いしているのよ……」  ヘレナが耳元で囁いた。だが、ジーニアは停止した。 「ちょ、ま。ジーン、大丈夫? え? あなた、息、息をしなさいよ」 「はっ。はぁ……。ごめん。なんか、情報量が多すぎて……。お兄さまの件は、何も聞いていない」 「うん。まだお付き合いの段階だからね。ジーンには恥ずかしくて言えないんじゃない? そのうち、きちんと紹介されるわよ」 「って、なんでヘレナは知っているのよ」 「騎士団では噂になってるから」  どうやらジェレミーはジーニアを見舞うたびに、ルイーズから妹の様子を聞き出していたらしい。それがきっかけで――というのが、騎士団内に広まっている噂だ。いや、噂ではなく事実。 「で、私とグレアム様。ほら、第一のシナリオカップルは幸せになったでしょ? 第二も、クラレンス様とジーン」 「待って。シリル様がいらっしゃるじゃない。シリル様は?」  ジーニアはクラレンスを奪ってしまったことで気になっていたのは、もちろん()()である。 「シリル様は、アマリエ様との婚約をすすめるそうよ」 「え、えぇええええ?! そっち? まさかのそっち?!」  シリルの相手が兄から妹に変わったということか。  ジーニアは両手で頭を抱え込んだ。  あの六人中の四人の相手が決まっている。そこに巻き込まれてしまったのは不本意ではあるが。 「ちょ、ちょっと待って。まだジュード様とミックが残っているわ」  考えを整理するかのように、静かにジーニアは言葉を吐き出した。 「そう。そうなのよ。それも聞いて、ジーン。ジュード様って既婚者だったのよ。ほら、本編ではそういったことに全然触れてなかったでしょう?」  ――なんなの、その裏設定! そしてなんなの、ヘレナの情報網。どこから仕入れてきているの? 「どこからその情報を仕入れてきているの、という顔をしているわね」  ヘレナは勝ち誇った笑みを浮かべ、二個目のワッフルに手を出した。 「これ、美味しいわね」 「あ、うん。そうなの。美味しいの。やはり王宮料理人というだけあって、お菓子も上手なのよ。ってそんなことは、どうでもいい。はやく、ジュード様とミックについて教えてよ」  ジーニアの知らない世界で、彼らが動いている。その全てを知り尽くしているのが、隣にいるヘレナのような気がしてならなかった。
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